ぼくらは群青を探している
「桜井が雲雀はずっとゲームしてるだけって言ってたけど」

「してたしてた。だってマジでいつログインしてもいたもん」

「停学なんて暇だろ。反省文は書いたけど」

「あ、そういうのってマジで書かされるんだ? なに書くの?」

「笹部のどういう言動がムカついたのか具体的に書いた後にそれはさておき暴力に訴えてすいませんって」

「反省してねー。結局笹部が悪いってチクってるだけじゃん」


 雲雀くんと目が合わないようにしながら、でも無視するわけにもいかないから、桜井くんか陽菜に視線を向けて、会話に参加しているふりをする。それでも雲雀くんが隣を歩く瞬間には自分の体が縮こまるように固まってしまったのを感じ、雲雀くんが席に着いた瞬間には自分の背中に全神経が集中してしまうのを感じた。


「てか侑生、リレー選手やんの?」

「やるだろ、なんで」

「だってバトン渡す練習とかしてないじゃん」

「別に普通にやればいいんだろ」


 ドクリドクリと心臓がうるさく鳴り始めた。でも雲雀くんが来たのがホームルームギリギリだったお陰で、すぐに担任の先生が来て、喋らない口実ができた。なんなら、体育祭のお陰で、ホームルームが終わってすぐ、雲雀くんは桜井くんと連れだって六組に着替えに行った。

 ほーっ、と胸を撫で下ろす私の隣にジャージを置いて、陽菜はニヤニヤと笑みを浮かべる。


「雲雀と一言も喋んないんだな。返事は?」

「まだしてない……」


 雲雀くんの停学当初、どんでもない尾ひれをつけていた噂は、今となっては「笹部が三国にフラれて悪口を言ったから雲雀と群青の先輩に殴られた」という、結局事実ではないものの、穏当なものに落ち着いてはいた。肝心の雲雀くんの公開告白も「公開告白はしていないらしい」とはなっている。体育館にきた先輩達が大声で騒いで帰ってくれたお陰だ。

 ……もしかしたら先輩達はそれを狙っていたのだろうか……と考えている途中で、あのニヤついた顔を思い出して考え直した。ただの結果論に違いない。


「早く返事しちゃえばいいのにさ」陽菜はスカーフをほどいて着替え始めながら「てか雲雀すげーな、あたしだったら一週間も待てねーわ」

「……そんなもん?」

「え、返事なんてすぐ欲しいじゃん。一週間悩んだって無理なもんは無理だし良いもんは良いだろ」


 ……そうだろうか。きっと一週間のどのタイミングで答えなければならなかったかによって、答えは違った気がするけれど。


「てか結局今日返事すんの」

「……今日は、どうしようかな……」


 体育祭の後だと砂埃と汗で雰囲気がないと言われたことを思い出す。雰囲気は要らないにしても、砂埃と汗に汚れた状態で雲雀くんの前に立つのは気が引けた。


「……別に……停学明けって言われただけで体育祭の日って言われたわけじゃないし……来週でもいいかなって……」

「うわー、あたしだったら絶対早く知りたい。代休の丸二日悩みそうだし」


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