ぼくらは群青を探している
……漫画でよくある描写の、良心を司る天使と我儘を司る悪魔、その天使のほうが具現化されたかのようなセリフだった。ただ天使にしてはちょっと口調が強いので、天使っぽい口調に訳すとすれば「雲雀くんだって停学明けくらいにはって言ってたし、遅くとも停学明けって意味だったんじゃないかな。一週間も悩ませてるんだろうし、早く返事してあげなよ!」といった感じだろう。ちなみに私の中の悪魔は「待つって言ったんだから最悪催促されるまで引き延ばしてもよくない? なんならそのまま答え出さないでスルーできるかもよ?」くらいとんでもないことまで考えている。さすが悪魔だ、いくら私でもそこまでの我儘は言えない。
「……可能であれば……今日中には……返事をしようと……」
「なんて言うの? なんて言うの!? いやここは楽しみにとっとくわ。月曜遊ぼうぜ!」
「いいけど……」
「あ、でも付き合うんだったら雲雀とデートする? んじゃデートしないってなったら遊ぼうぜ」
「…………いいけど」
私達よりも周囲のほうが大騒ぎしているというか、楽しそうというか……。
現に、こっそり視線を動かせば、教室内で着替えている六組の女子も、何人かはたまに私を見ているし、陽菜と私の会話に聞き耳を立てるべく不自然に口を閉ざしているのも見える。私と陽菜は教室の隅で着替えているから、さすがにここまで声のトーンを落とせば聞こえるはずがないにしても、喋ったことがない人に自分を探られている気がしてなんだか気持ちが悪かった。
教室の外に出た後だって、今度は六組の教室から出てきた男子に「あ、三国だ」「ああ、例の」と噂をされている。
「……すげー、英凜、ますます有名になったな!」
「勘弁してほしい……」
代表挨拶を辞退しておけばよかった、当日ドタキャンすればよかった、あの日新庄に拉致されなければよかった、形なんかに拘らず群青に入らずに陰でコソコソ桜井くんと雲雀くんと仲良くしておけばよかった……。まるで走馬灯のように脳裏にこの半年間の分岐点が浮かぶけれど、全部選択を間違えた後だ。今更後悔したって遅い。
グラウンドへ出た後、今度は「みっくにー!」と桜井くんでも雲雀くんでもない、手をぶんぶん振っているのが目に浮かぶような明るい挨拶が聞こえてきた。私と陽菜が振り向くより先に、私の隣に荒神くんが、さらにその隣には中津くんもやってきて「英凜さんこんにちは!」といつも通りの舎弟じみた挨拶をしてくる。現に陽菜は「あ、ユカの元カレと英凜の舎弟だ」なんて口にした。本当に、中津くんは私に敬語を使うのをやめてほしい。
「あー……、らがみくん、と中津くん……久しぶり……」
「な、さっき侑生に聞いたら蹴られたんだけど、侑生に告られたの?」
聞いただけで蹴られたんだからそれ以上首を突っ込まなければいいのに……。顔をひきつらせる私に構わず、隣の中津くんもぐっと拳を握り締める。
「英凜さんと侑生さんがくっつくの、なんか群青に安定感出ますよね! 侑生さん、将来の幹部候補ですし、英凜さんという頭脳があればもう怖いもんなし!」
……公開告白は否定されたのに、本当に、なんで雲雀くんが告白した前提、しかも私がそれを受け入れる前提なのだろう。
「あ、ごめんな、これ半分冗談だから。侑生が告白もなんもしてないみたいなの、永人さんとか群青の人達が騒いでたって聞いたしー。なんなら侑生が勝手にフラれてるみたいな!」
「……可能であれば……今日中には……返事をしようと……」
「なんて言うの? なんて言うの!? いやここは楽しみにとっとくわ。月曜遊ぼうぜ!」
「いいけど……」
「あ、でも付き合うんだったら雲雀とデートする? んじゃデートしないってなったら遊ぼうぜ」
「…………いいけど」
私達よりも周囲のほうが大騒ぎしているというか、楽しそうというか……。
現に、こっそり視線を動かせば、教室内で着替えている六組の女子も、何人かはたまに私を見ているし、陽菜と私の会話に聞き耳を立てるべく不自然に口を閉ざしているのも見える。私と陽菜は教室の隅で着替えているから、さすがにここまで声のトーンを落とせば聞こえるはずがないにしても、喋ったことがない人に自分を探られている気がしてなんだか気持ちが悪かった。
教室の外に出た後だって、今度は六組の教室から出てきた男子に「あ、三国だ」「ああ、例の」と噂をされている。
「……すげー、英凜、ますます有名になったな!」
「勘弁してほしい……」
代表挨拶を辞退しておけばよかった、当日ドタキャンすればよかった、あの日新庄に拉致されなければよかった、形なんかに拘らず群青に入らずに陰でコソコソ桜井くんと雲雀くんと仲良くしておけばよかった……。まるで走馬灯のように脳裏にこの半年間の分岐点が浮かぶけれど、全部選択を間違えた後だ。今更後悔したって遅い。
グラウンドへ出た後、今度は「みっくにー!」と桜井くんでも雲雀くんでもない、手をぶんぶん振っているのが目に浮かぶような明るい挨拶が聞こえてきた。私と陽菜が振り向くより先に、私の隣に荒神くんが、さらにその隣には中津くんもやってきて「英凜さんこんにちは!」といつも通りの舎弟じみた挨拶をしてくる。現に陽菜は「あ、ユカの元カレと英凜の舎弟だ」なんて口にした。本当に、中津くんは私に敬語を使うのをやめてほしい。
「あー……、らがみくん、と中津くん……久しぶり……」
「な、さっき侑生に聞いたら蹴られたんだけど、侑生に告られたの?」
聞いただけで蹴られたんだからそれ以上首を突っ込まなければいいのに……。顔をひきつらせる私に構わず、隣の中津くんもぐっと拳を握り締める。
「英凜さんと侑生さんがくっつくの、なんか群青に安定感出ますよね! 侑生さん、将来の幹部候補ですし、英凜さんという頭脳があればもう怖いもんなし!」
……公開告白は否定されたのに、本当に、なんで雲雀くんが告白した前提、しかも私がそれを受け入れる前提なのだろう。
「あ、ごめんな、これ半分冗談だから。侑生が告白もなんもしてないみたいなの、永人さんとか群青の人達が騒いでたって聞いたしー。なんなら侑生が勝手にフラれてるみたいな!」