ぼくらは群青を探している
「舜って本当にクズい発言するよなあ。開き直ってていいと思うけどさ」

「女の子なんてただでさえ面倒くさいんだから、できるだけ面倒くさくない子を選びたいのは当たり前」


 本当に女の子が好きなのか疑いたくなる発言だったけれど、そういう〝好き〟もありなのだろう。雲雀くんも「男の欲望に忠実なヤツ」と評していたし、不特定多数と気楽に付き合いたい、とか。それ自体にあまり違和感はなかったのだけれど、中学生の頃に入れた情報とは少し違っていたので、荒神くんの情報は少し修正することにした。

 荒神くんは宣言のとおりそのままテーブルに居座り、初対面に等しい荒神くんも加えた四人で夕飯をとることになった。そんな内情はともかく、自分の様子を俯瞰(ふかん)すると、荒神くんのいうとおり拉致された家出少女に見えなくもない気がして少し不安になった。

 ただ、荒神くんの不安は別のところにあるらしい。「つか、お前ら永人(えいと)さんに誘われたってマジ?」なんて眉間に(しわ)を寄せて渋い顔をしている。


「あー、なに、そんな噂立ってんの」

「マジだけど断った」

「なんで!」

「え、普通にだるくない、チームとか。なんか群れてると弱っちいみたいで恰好悪いし」


 ()しくも、ブルー・フロックは〝青の群れ〟。桜井くんがどこまで分かって言っているのか分からなかったけれど、そのセリフはある意味で的を射ていた。


「なんでぇ? まあ群れるとあれってのは分かるけど、群青は格好いいじゃん。つか俺は永人さんが格好いいと思う、マジ」

「まああの人は恰好いい人だよな」


 雲雀くんがぼそっと返事をしたので視線を向ければ、空の鉄板が目に入った。一方、私の目の前にはまだ半分近くスパゲティが残っている。もしかして飲んだのではと思えるほど早い食事だったけれど、隣を見れば桜井くんの鉄板も空だし、ずっと喋り続けている荒神くんのお皿だって残すはヒレカツ一口のみだ。

 男子の食事はスピードが違う。つい慌ててパスタを巻いた。


「だろ? 誘われてるうちに群青入ったほうがいいじゃん」

「それとこれとは別だ」

「えー。永人さん抜きでも、入ったほうがいいと思うけどなー。だってお前ら、庄内さんぶっ飛ばしちゃったんじゃん?」

「来るんだからぶっ飛ばすしかないじゃんそんなの」


 そんな、蚊が止まったから叩いたみたいにさも当然の行為として語られても……。一寸(いっすん)の虫にも五分の魂なんて話は()くとして、人間相手にそれをやったらそれはただの蛮人(ばんじん)だ。


「入学式だって群青の二年のことぶっ飛ばしたんだろ?」

「あれは向こうが悪いんだってば」

「てか、そうだよ、お前らがそういうことするから、俺だって芳喜(よしき)さんに呼び出されたんだぞ! お前らを群青に誘えって!」

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