ぼくらは群青を探している
「芳喜? 誰?」

「二年の能勢(のせ)芳喜さんだよ! めちゃくちゃ頭良いんだぜ、群青は永人さんの力と芳喜さんの頭があるから歴代最強だって言われてるくらい。いやま、喧嘩も強いんだけどさ」

「あー、はいはい、分かった。あの背が高い色気あるイケメンの人だ」

「そうそう、その人。北中にいた人だよ」

「俺、あの人なんかやなんだよなー。背高いしイケメンだし実家も金持ちだろ? なんかさー、世の中不公平って感じするんだよな」

「侑生もイケメンで金持ちじゃん」

「俺のほうがイケメンだから侑生は許せるの」

「お前のほうが背低いじゃねーか」

「はん、分かってねーな、大事なのは股下(またした)なんだよ」

「言ったな? 測ってやろうか?」

「あッやっぱいい。代わりに三国に聞こうぜ、三国、俺と侑生どっちがイケメン?」

「え?」


 くだらない話なのになんだか楽しそう、その程度の気持ちで聞き手に徹し、必死に口を動かしていたところにまさかの巻き込みが発生した。お陰でフォーク片手に食べかけのパスタを前にして静止するなんて間抜けな図が出来上がってしまった。


「えっと……なに……」

「侑生と俺とどっちがイケメンか」

「お前本当に三国に迷惑料払えよ」


 くだらないのは雲雀くんにとっても同じなのだろう、カフェラテの入ったカップを傾けるその眉間には深いしわが刻まれている。


「それより三国、急いで食わなくていい」

「え?」

「俺らが食い終わったから急いで食ってんだろ」


 図星をつかれて押し黙ると「どうせ俺らは永遠にドリンクバー飲んでるから。食い終わったら帰るってわけじゃない」なんて付け加えられた。

 やっぱり、雲雀くんはちゃんと分かるんだ。いや、でも、私だって、そのくらい。集団の中で、一人が黙々と食事をとっている状況があれば、そしてその一人の食事のスピードがあるタイミングを境に上がるのを確認すれば――なんて、必死に言い訳をした。


「……まあ……」

「あ、マジ? 気にしなくていいつーか、むしろゆっくり食って。ドリンクバーで居座ると気まずいから」


 それが本心なのか、その場しのぎの気遣いなのか、私には分からない。

 せいぜい分かるのは、それを考えずにできる桜井くんの頭は悪くないということだけだ。


「……ありがと」

「つか侑生はそういうところが狡い! そうやって隙あらば株上げようとするじゃん。そういうのがなければ俺のほうがモテると思うんだよね」

「狡くねーだろ、人として当然の気遣いだ」


 チクリと、その謙遜が胸を刺す。


「よし、侑生と比べんのやめ、やめ。こんなんだと侑生のほうが有利だ」

「お前はスタートラインが後ろだろ」


 ほんの少しの焦燥を誤魔化すように、視線をスパゲティに落とす。急いで食べたお陰で残りは少しだ。

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