ぼくらは群青を探している
 その最終種目、色別対抗リレーにも何人か群青メンバーは混ざっていた。青組には常盤先輩と桜井くん、赤組には九十三先輩と雲雀くん、黄組には誰もおらず、白組に中山先輩。

 一番の盛り上がりをみせ、かつ参加者が少ないその競技で、前方の観覧席を確保することは不可能だった。日陰の観覧席を諦めつつ、うろうろとグラウンドの見える場所を探していると「三国ちゃーん、こっちおいでー」と能勢さんの声が聞こえ、手も見えた。駆け寄ると、どうやらテントの片隅を群青の先輩達が占領しているらしかった。


「おう三国」


 その中でも最前列を陣取って座っている蛍さんが隣を叩いた。つい、息が止まる。


「リレー見んだろ? ここ座れよ」


 赤倉庫の日、新庄が私を拉致するより前に新庄と会ってましたか? 蛍さんって妹さんが亡くなってるんですか? 私ってその妹さんの代わりなんですか? なんで蛍さんは私の中学生のときの写真を持ってるんですか?

 そんな疑問が次々沸いたけれど、こんなところで口に出せるはずがなかった。

 蛍さんとは、いつか駆け引きが必要になる……。そしてそのいつかは、少なくとも今ではない。そう自分に言い聞かせて、あらゆる疑問を心の奥底に押し込んだ。


「……いいんですか? 先輩達も見たいんじゃ……」

「三国ちゃんチビだから、俺らは後ろでも見えるって」


 気にするな、と別の先輩に肩を押さえられ、半ば無理矢理最前列に座らされた。


「……ここって色区別ない観覧席ですよね? 群青で占拠してるんですか?」

「人聞き悪いこと言うんじゃねーよ、俺らがいるからイヤがられて勝手にいなくなるんだよ」


 見渡す限り群青の先輩しかいない……と思っていたら、やはりそういうことだし、悪いのはやっぱり群青側だと思う。


「まあ三国、先に言っとくけど、九十三、常盤、このあたりはガンガン野次飛ばしていい。中山は繊細だからやめたほうがいい」

「飛ばしませんよそんなの……」


 でも雲雀くんに野次を飛ばしてやれという先輩はいなかった。どうやらあのブツブツの呪いが功を奏したらしい。


「てか悪いな、優勝は多分赤組だ」隣の蛍さんは柄にもなく体育祭なんて学校行事での優勝に嬉しそうな顔をして「騎馬戦と棒倒し取ったからな。あれ、得点高いんだよ」

「正直、群青のメンツは分散してるって言っても、永人さんと九十三先輩いるのはずるいでしょ」能勢さんも私の隣に座り込んで苦笑しながら「騎馬戦だって、永人さんに狙われた一年半泣きでしたよ」

「うわ……」

「ほら三国ちゃんも引いてるし」

「仕方ねーだろ、最後に残ってたんだから。あ、笹部唯人は初っ端にぶち殺しといた」

「要りませんよそんな報告!」

「あれ、桜井くん、トップバッターなんだ?」


 能勢さんの声で、放送席の前に視線を向ける。遠すぎて見えないけれど、桜井くんと思しき金髪が水色のバトン片手にぴょんぴょんと跳ねているところだった。


「一年アンカーじゃないの?」

「……足は速いらしいんですけど、そこは戦略で、初っ端から引き離すとかなんとか言ってたと思います」

「んじゃ雲雀と対決見れねーじゃん。アイツ一年アンカーだろ」

「そうですね……」


 でも、私は桜井くんと雲雀くんの競争に順位がつくようなものは見たくなかったので、その偶然の采配(さいはい)には安堵していた。


「……そういえば、九十三先輩って足も速いんですね」

身長(タッパ)あるしな。アイツはマジで運動神経の塊」

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