ぼくらは群青を探している
 それから暫くして、雲雀くんと桜井くんが席を立ったとき、明らかに二人でいる隙を狙って、荒神くんは「なあ、三国」と話しかけながらわざわざ私の隣に移った。


「……なにか?」

「や……あのさ、余計なお世話かもしんないんだけど、三国、お前、昴夜と侑生と一緒にいて大丈夫か?」


 その趣旨が分からず、ゆっくりと(まばた)きして敷衍(ふえん)してくれるように促した。荒神くんが視線を泳がせるのを見て、話を切り出したときの()が気まずさゆえだったのだと気が付いた。


「……俺はいいんだ。俺みたいなのはいい。俺は中学の時からずっとアイツらと仲良くやってるし、アイツらがイイヤツなのも知ってる。でも三国、俺がアイツらと仲良くするのと、三国がアイツらと仲良くするのは違うと思う」


 きっとその相違は、有体にいえば、私と荒神くんの学校成績にあるのだろう。荒神くんの成績なんて知らなかったけれど、それがさして良いものではないことは想像がついた。片や、自分の成績が中学から引き続き群を抜いて良いことは――自惚(うぬぼ)れなんかじゃなく、分かっていた。

 でも、それがなんだというのだろう。自分が所属している社会で群を抜いて学校成績に秀でることに、一体何の意味や意義があるというのだろう。

 その意味で、荒神くんの心配は的外れだった。


「や、なんかさ……俺が口出すことじゃないかなとも思うんだ。でも、三国は〝優等生〟だろ?」


 別に、なにひとつ気を悪くする言葉なんてなかったのだけれど、荒神くんは必死に慎重に言葉を選ぶかのように、たどたどしく語った。なんなら、その声音だって、桜井くん達がいるときとはトーンが違った。どう違うのかは上手く言語化できなかったし、もしかしたらそのスロウペースな言葉の運びからそう感じているだけかもしれなかったけど。


「アイツらと――俺と遊んでていいの? 普通が退屈だとかさ、平凡な日常に飽きたとかさ、なんかそういう軽い気持ちでアイツらと一緒にいるのは、俺みたいなヤツだけでいいと思うんだよね」


 たまに、不思議になる。人が他人のことを勘違いし、自分が思った通りの枠に当てはめて理解しようとすることなんていくらでもあるのに、他人を分からないと思うことが、なぜ普通ではないのかと。


「……心配しなくても、普通にも平凡にも飽きてないよ」

「……そう?」


 荒神くんの眉は八の字になって、まるで本当に心配されているような気がしてしまった。


「それならいいんだけど。三国ってさ――」

「おい舜、そっち俺の席」


 荒神くんが何かを言い終える前に桜井くんが戻ってきて、不満げに頬を膨らませながら私の向かい側に座った。今度は雲雀くんが「奥は俺の席だろ」なんて言う番だけど、桜井くんはもう動かない。


「舜、なんやかんや言って結局三国のこと口説いてんの?」

「いや、昴夜と侑生、どっちがイケメンかこっそり聞こうと思って」

「俺だよな!」

「……心配しなくても二人ともイケメンだよ」

「そーいう話じゃないんだよ、三国ィ!」


 普通にも平凡にも、飽きてない。
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