ぼくらは群青を探している
「三国ちゃん何の漫画読んでんの? そんな虐めあんの? コワ」
「だから私は虐められたことは特にないです、仲の良くない人から悪口を言われる程度ならありますけど、それはいくらでもあることでしょうし……」
「んー、んー、そうだねー。んじゃ永人にとって何がそんなに心配だったんだろうね?」
首を傾げていると「だからさあ、俺的には、永人が三国ちゃんを特別可愛がる理由は分かるんだよね」と九十三先輩はピンと指を立ててみせる。それでも肩の上の鉄パイプは必要最小限に揺れるだけなので、先輩の屈強さがよく分かった。
「でも、それって群青に入れるほどなの、ってのは《《俺》》《《達》》もわりと疑問だったわけ。まあ昴夜たちが懐いたから群青に入れるしかなかったのかな? それとも永人って三国ちゃんにマジになっちゃったのかな? それにしちゃやり方がまわりくどいし、やっぱり三国ちゃんが心配なのかな?」
「私が心配っていうのは……」
「だって三国ちゃん、体弱いなんて噂あるんだもん」
ゆっくりと目を見開く。私を見下ろす九十三先輩の目はいつもと変わらず「でも嘘、ってか単なる噂かなーって俺らは思ってんだけどね」と私が密かに抱える論点には気づかない。
「ほら、プールでも元気に泳いでるの見たし、体育も普通にやってるし、海も来てるし。今日も元気に走ってたしー、まー噂じゃん噂、勘違いでしょ、って。……え、大丈夫だよね? 弱くないんだよね?」
「……そう、ですね……」
「だーよねえ、じゃなきゃ昴夜たちの遊びに付き合ってるうちに心臓止まってポックリいっちゃうでしょ」
「……その話って」
「あー、雲雀だ雲雀だ。おーい」
……九十三先輩の運が良いのか、私の運が悪いのか。手ぶらで校舎に戻ろうとしている雲雀くんがその声で迷惑そうに振り向き、立ち止まった。多分、私がいなければ立ち止まることまではしなかっただろう、そんな態度だった。
「……どうも」
「お前暇そうじゃん、これ半分持って」
「ヤですけど」
断りながら、雲雀くんは私の腕の上からテントの布を引き取る。私が何か言う前に「おい三国ちゃんにだけ優しくしてんじゃねーよ」と九十三先輩が口を尖らせた。
「これ、どこ持って行くんですっけ」
「あー……あー、どこだ?」
「体育倉庫ですよ……。分かっててこっち歩いてたんじゃないんですか……」
「いや、なんかみんなこっち方向行くから、適当に」
体育倉庫のある方向へ歩いてはいたので、あながち間違ってはいない。九十三先輩はこういう本能で上手く生きてきたのだろうか。はて、と首を捻る私の横で「そういや明後日焼肉食うんだけど、お前来るだろ?」「行きますけど」「けど?」「なんか九十三先輩に行くって二つ返事で言うの、癪だなあと思って」「お前先輩をなんだと思ってんだよ」と憎まれ口を叩きながらも仲良く体育館倉庫へ向かう。雲雀くんに任せてさようならというのも気が引けたので、後ろをついていくと、倉庫では山口先生が「お前ら、こういうときは働いて便利だな」と多分群青のことを誉めてくれていた。
「てか、なんで明後日焼肉なんすか」
「体育祭の打ち上げ」
「だからなんでそれを明後日やるんですかって聞いてるんですよ」
「クラスの打ち上げと被るからじゃないんですか?」
「いや群青はクラスに居場所とかないから」とんでもない一言をしれっと放ちながら「今日やると汗臭いからイヤだって永人が言うんだよ」
「どうせ焼肉臭くなるのに」
「だから私は虐められたことは特にないです、仲の良くない人から悪口を言われる程度ならありますけど、それはいくらでもあることでしょうし……」
「んー、んー、そうだねー。んじゃ永人にとって何がそんなに心配だったんだろうね?」
首を傾げていると「だからさあ、俺的には、永人が三国ちゃんを特別可愛がる理由は分かるんだよね」と九十三先輩はピンと指を立ててみせる。それでも肩の上の鉄パイプは必要最小限に揺れるだけなので、先輩の屈強さがよく分かった。
「でも、それって群青に入れるほどなの、ってのは《《俺》》《《達》》もわりと疑問だったわけ。まあ昴夜たちが懐いたから群青に入れるしかなかったのかな? それとも永人って三国ちゃんにマジになっちゃったのかな? それにしちゃやり方がまわりくどいし、やっぱり三国ちゃんが心配なのかな?」
「私が心配っていうのは……」
「だって三国ちゃん、体弱いなんて噂あるんだもん」
ゆっくりと目を見開く。私を見下ろす九十三先輩の目はいつもと変わらず「でも嘘、ってか単なる噂かなーって俺らは思ってんだけどね」と私が密かに抱える論点には気づかない。
「ほら、プールでも元気に泳いでるの見たし、体育も普通にやってるし、海も来てるし。今日も元気に走ってたしー、まー噂じゃん噂、勘違いでしょ、って。……え、大丈夫だよね? 弱くないんだよね?」
「……そう、ですね……」
「だーよねえ、じゃなきゃ昴夜たちの遊びに付き合ってるうちに心臓止まってポックリいっちゃうでしょ」
「……その話って」
「あー、雲雀だ雲雀だ。おーい」
……九十三先輩の運が良いのか、私の運が悪いのか。手ぶらで校舎に戻ろうとしている雲雀くんがその声で迷惑そうに振り向き、立ち止まった。多分、私がいなければ立ち止まることまではしなかっただろう、そんな態度だった。
「……どうも」
「お前暇そうじゃん、これ半分持って」
「ヤですけど」
断りながら、雲雀くんは私の腕の上からテントの布を引き取る。私が何か言う前に「おい三国ちゃんにだけ優しくしてんじゃねーよ」と九十三先輩が口を尖らせた。
「これ、どこ持って行くんですっけ」
「あー……あー、どこだ?」
「体育倉庫ですよ……。分かっててこっち歩いてたんじゃないんですか……」
「いや、なんかみんなこっち方向行くから、適当に」
体育倉庫のある方向へ歩いてはいたので、あながち間違ってはいない。九十三先輩はこういう本能で上手く生きてきたのだろうか。はて、と首を捻る私の横で「そういや明後日焼肉食うんだけど、お前来るだろ?」「行きますけど」「けど?」「なんか九十三先輩に行くって二つ返事で言うの、癪だなあと思って」「お前先輩をなんだと思ってんだよ」と憎まれ口を叩きながらも仲良く体育館倉庫へ向かう。雲雀くんに任せてさようならというのも気が引けたので、後ろをついていくと、倉庫では山口先生が「お前ら、こういうときは働いて便利だな」と多分群青のことを誉めてくれていた。
「てか、なんで明後日焼肉なんすか」
「体育祭の打ち上げ」
「だからなんでそれを明後日やるんですかって聞いてるんですよ」
「クラスの打ち上げと被るからじゃないんですか?」
「いや群青はクラスに居場所とかないから」とんでもない一言をしれっと放ちながら「今日やると汗臭いからイヤだって永人が言うんだよ」
「どうせ焼肉臭くなるのに」