ぼくらは群青を探している
(4)開示
「ではー、赤組優勝を祝してー」
「俺青組なんですけど」
「ガタガタ抜かすな、負けたヤツは取り込んだ。赤組優勝を祝してー、カンパイ」
貸切られた座敷の中で、カンパーイと太い声が響く。私はオレンジジュースの入ったジョッキ片手に、生まれて初めての乾杯にちょっとだけドキドキした。
「乾杯って……乾杯って、杯を乾かすって書きますよね。これって飲み干さなきゃいけないんですか……?」
「言われてみればそうだね……でも飲み干さなくていいよ。もとは杯を干すものだと思いますけど、なんで飲み干さなくてよくなったんですかね」
「知らねーよ、俺に聞くなよ」
「てか三国ちゃん乾杯したことないの? マジ普段なにやってんの? 家に引きこもってヒッデェイジメの本ばっか読んでんの?」
「読んでません」
私、雲雀くん、桜井くんの前には、能勢さん、九十三先輩、蛍さんといういつもどおりのメンバーが座っている。見慣れた顔とはいえ、群青のNo.1からNo.3が揃い踏みなので、群青の序列を知った今となっては「よく考えれば普段生意気にしれっと喋ってる先輩達こそ灰桜高校で泣く子も黙る不良のトップなんだな」と身が引き締まらなくもない。
「三国ちゃんって焼肉とか食うの?」
「……まあ年に一回くらいは。親戚が来たときに揃ってって感じで……」
「マジかよ。んじゃ今年初か?」
「そうですね。だから注文の仕方とか何を注文するのかとか? あんまり分からないです」
ファミレスならいつも同じものを注文すれば足りるのに、と首を捻っていると、メニューを開く能勢さんの隣で九十三先輩が「あー、大丈夫大丈夫。俺らが好きなだけ注文するし、なんなら三国ちゃんさっさと食わないとなくなるよ」妙なことを言うと思ったら、能勢さんを代表とした注文が運ばれてきた瞬間にその意味を目の当たりにした。
とにかく焼かれた瞬間にお肉が消える。一応下座にいるのは私だし、名実ともに下っ端なのでお肉を焼くのを引き受けようとしたら「三国食えないからやめたら?」と雲雀くんに颯爽と奪い取られた。そしてそれは大正解で、網の上に載ったお肉はちょっと目を離した瞬間に消えるし「三国ちゃん食べてる?」と能勢さんが私に恵んでくれるも、私が一枚食べる間にお肉のお皿が空っぽになっている。焼いていたら食べれていない。というか、焼きながら食べてる雲雀くんと能勢さんの器用さがおかしく思えた。
お肉争奪戦はお兄ちゃんと繰り広げていたとはいえ、それもお兄ちゃんが中学三年生になるときまで。それに、妹に対して傍若無人なお兄ちゃんは従兄弟にはそうでないため、京くんと駿くんと揃って焼肉へ行けばそう瞬時にお肉が消えることはなかった。お兄ちゃんと同居していないこの四年間で唯一身に染みていることといえば、お兄ちゃんがいつまでも際限なくお肉を食べるだけの食欲を持っていることだけだった。
その兄と同レベル、いやもしかしたらそれ以上の食欲を持つ人がこの場に五人。多分お店の人もいつになく速く多い注文に泣いているに違いない。いや、男子高校生の食べ放題の予約が入ったらそれくらいは覚悟しているのだろうか……。
「三国食ってんの?」
「……食べてる……」
「英凜噛みすぎなんじゃね?」
「お前は呑んでんだろ」
「焼肉は飲み物」
「死ぬぞ」
「お前チビのくせによく食うな」
「成長期止まった永人さんだって食ってんじゃん」
「お前が肉を詰まらせる呪いをかけたからな、心して食えよ」