ぼくらは群青を探している
「英凜、この皿空いたー」

「あ、うん」

「桜井くんのお世話してたら三国ちゃんが食べれないでしょ。カルビ食べた?」

「食べてます……」

「米減ってなくない? 三国ちゃんだけ小だしさ、もっと食べたら?」

「いやそんなどんぶりみたいに白米食べれないんで……」


 なんでこの人たち、そんなに喋りながら次々食べれるの……? 九十三先輩はともかく、私と大して体の太さが変わらない (ように見える)雲雀くんと桜井くんまで異常な速さで異常な量を食べている。でも急いで食べているようには見えないので、開けている口の大きさが違う……? 中学あたりから男女の体力差が明確になっていくように、食欲と容量にも明確に差がついてしまうものなのだろう……。


「てかさー、聞いて? 一昨日の夜さー、制服にラブレター入ってたんだよね」


 そして食べるのに必死なこの戦場に、九十三先輩がとんでもない話題をぶち込んできた。これが雲雀くんの話に派生しませんように……と必死に心の中で祈りを捧げる間、聞こえたらしい他のテーブルの先輩達が「マジ!?」「リレーのせいか!?」と騒ぎ立て、蛍さんが「マジかよ、悪趣味だな」と悪態を吐く。


「いやそれがさー、気付いたの夜だった、てか風呂入る前だったわけ、この意味分かる? そのラブレター『今日の放課後体育館横で待ってます』だったからさあ、普通にぶっちしたことになった」


 ああ……。でもそれはこっそり制服に仕込んだ人にも問題があるような気がした。気付かれない可能性なんていくらでも考えられただろうに……。


「……とはいえ、先輩も千載(せんざい)一遇(いちぐう)のチャンスを逃したんですね」

「センザイイチグウって何?」

「三国ちゃん、失礼なことを言った自覚ある?」

「……あ、ごめんなさい」

「俺に分からないように俺の悪口言うのやめて」

「で、でも、リレーのときの九十三先輩は恰好良いなと思いました、黙ってれば恰好いい人なんだなって!」

「だから悪口だろ」


 眉間に皺を寄せながら九十三先輩は口にお肉を放り込む。その様子を見ていて、私が三口にわけて食べるものを先輩達は一口で食べるのだと思い知った。単純計算で三倍速だ。どおりで私にはお肉が消えるように見えるはず。


「俺は? 俺もリレー走ってたじゃん?」


 もぐもぐとお肉を食べる桜井くんが雲雀くんの横からひょいと顔を出した。日に焼けてその鼻の頭は少し赤くなっている。

 そんな間抜けな顔を見ると、脳裏に刻み込んだリレーの雄姿なんて、夢幻のように掻き消えてしまいそうになる。


「……ほら、犬って走るの速いし」

「犬!」

「お前金髪だしな。ワンコだワンコ」

「金髪なんていくらでもいるじゃーん。てかリレー走ったらラブレター貰えんの? 俺貰ってないんだけど」

「帰ったら制服のポケット見てみな。マジ危ねえ、気付かないで洗濯機突っ込んだら悲劇だぜ」


 それはなんとも迷惑な話だ。というか、九十三先輩が意外と小忠実(こまめ)なことを知った。ちゃんと洗濯機に入れる前にポケットを確認するらしい。


「んー、俺も見てるんだけどなー。なかったなー」

「雲雀とか入ってんじゃねーの? お前モテんだろ、知らねーけど」


 ……心配していた会話の流れがやってきた。警戒していたとはいえ、つい一瞬、箸を止めてしまった。気付かれないように慌てて動かし、なんなら口をお肉で(ふさ)いで、口を挟まない口実を作る。


「俺は見つけたら即捨ててるんで」


 捨てるんだ……。


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