ぼくらは群青を探している

(4)前兆

 それは、ゴールデンウィークの三日目の出来事だった。


「英凜ちゃん、携帯電話、鳴っとったよ」

「え?」


 毛布のない掘りごたつに腰から下を入れ、まるでもぐらのように腕と頭だけを畳の上に出していた私の目の前に、そっと携帯電話が置かれた。

 中学生のときに買い与えられたそでは分厚く、機械っぽいシルバーで、例えば雲雀くんの携帯電話の隣に置くとまるでオモチャのようだ。特に、おばあちゃんに何も起こらず、特に連絡を取る相手もおらず、使う機会も少なく……なんて有様だと、本当にオモチャのように思えてしまう。現に、携帯電話なのに台所に置きっぱなしだった。


「鳴ってたって、電話?」

「さあ、そうじゃないかねえ。ずっとブーブー言っとったからね」


 音が短ければメール、長ければ電話。最初の頃は「音が鳴れば電話」と思っていたおばあちゃんも、今となってはそれくらいの区別がつく。

 でも、電話だとしたら一体誰だ……と考えていて、雲雀くんに電話番号を教えていたことを思い出した。実際、手に取って開けば、不在着信画面に表示されているのは雲雀くんの名前。

 かけ直そうか悩んでいると、パッと画面が切り替わり「着信中」と表示される。また雲雀くんだ。


「……もしもし」

「《あ、三国ィ?》」


 ……それなのに、聞こえたのは桜井くんの声だった。

 あの二人、休みの日まで一緒にいるのか……。本当に仲が良いなと思っていると、電話の向こうからは「三国、出た?」と荒神くんの声まで聞こえてきた。


「なにか用事……」

「《いま俺ら海来てんだけどさー、三国も来ようぜー》」

「海……?」


 いや、海って言ったって、まだ五月ですけど。頭の中には、冷たい潮風の吹く海岸の図が浮かんだ。うちからだと自転車で十五分くらいだけど、きっと桜井くん達にとっては遠出だろう。彼らの住所は知らないけれど、中学の位置が真逆なのできっと家も真逆だ。

 それはさておき、今から海へ……? 一体何の遊びをするというのか。検討もつかなかったけれど、桜井くん達がいるならきっと楽しい。時刻は午後一時、あと一時間と少しは一日の中で一番暖かく、今日は気温も高めだし、足をちょっとつけるくらいならいいかもしれない。残りのゴールデンウィークに出かける予定もないし。

 ついそんな気持ちになって「んー、うん、分かった」と軽い返事をすると「《お、マジ?》」と少し上擦(うわず)った声が返事をしてくれた。


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