ぼくらは群青を探している
「捨てんの!? なんで!?」

「急に誰もいないところに呼び出されるとか、リンチされたらどうすんですか?」


 そうか……雲雀くん達にはそういう可能性もあるのか……。ラブレターに見せかけた果たし状という……。


「まあなくはないか……」

「そういえばありましたよね、俺がラブレターにつられてほいほい行ったらリンチだった話」

「あったんですか……!?」


 お肉は飲み込んでしまったし、結構本気で恐怖体験に聞こえたせいでつい口を出してしまった。でも能勢さんはしれっと「あったよ。俺、ラブレター貰うこといくらでもあるし、(まぎ)れ込まされたら全然気付かないって」「自慢挟んでんじゃねーよテメェのタンを焼くぞ」……やっぱり恐怖体験だ。


「それどうなったんですか……?」

「野次馬してた九十三先輩達が出てきてデッドエンド」


 ……能勢さんをリンチしようとしていた人達にとって本当に文字通りDEAD ENDだった。可哀想に。人を呪わば穴二つ……とは違う、策を(ろう)しているときほど策に(はま)りやすい……というのも違う、塞翁(さいおう)が馬、これだ。


「んじゃ俺らが野次馬やってやるから、お前も行けよ」

「イヤですよ。告白だったらただの(さら)し者じゃないですか」

「いいじゃん、俺ら楽しいんだから」

「一体何のボランティア精神でそんなことを」

「でも告白だったらどうすんの? 女の子待ちぼうけで可哀想じゃない?」

「どうせ断るんだから行っても行かないでも同じ」

「えー、分かんないじゃん、めっちゃ可愛い子かもしれないじゃん。てか雲雀ってどんな子が好みなんだっけ?」


 ……無言でお肉を口に運ぶ羽目になった。雲雀くんも回答に(きゅう)したらしく無言だった。その隣の桜井くんもフォローに困ったらしく無言だ。それを見た先輩達も無言になった。結果、焼肉開始一時間にして初の沈黙が生じた。

 その沈黙の意味を、私なら読み取ることはできなかっただろう。でも先輩達は私ではない。なんなら、気のせいでなければ、焼肉の煙越しに先輩達の目が怪しく光った。


「……分かった、当てる」九十三先輩がまた厄介なことを言い始めて「髪は黒」


 雲雀くんはやはり無言だった。今までになく丁寧にお肉を咀嚼(そしゃく)している。


「頭が良い」能勢さんが怪しい笑みを浮かべた。


「常にすっぴん」蛍さんが悪口なのかなんなのか分からない指摘をした。


「最近はポニーテール」

「目が二重で真っ黒」

「いちいち謎知識出してきて何話してんのか分からん」

「身長一六〇センチないくらい」

「鼻が高い」

「いつもぼーっとしてる」

「体重がー、あー、四六キロくらいかな」


 順々に要素を挙げていく中、九十三先輩の目算がピンポイント過ぎて震えた。


「あとなんだろう……青組?」


 能勢さんのそれは一時的な学校行事での所属を指していて、好みも何もない。


「理屈っぽい」


 蛍さんの指摘はさっきから半分くらい悪口だ。本当にこの人は私のことを大事にしてくれているのか疑問が湧く。


「雲雀、先輩達に何か報告することはないのかなあ?」九十三先輩は(やから)のように恐ろしく鋭い眼光を放ち「早く言えよ、スリーサイズ当てんぞ」


 当て……られるのだろうか……私自身知らないのに……? オレンジジュースのグラスを手に呆然としている横で、やはり雲雀くんは無言だ。桜井くんも無言を貫いていたけれど、ややあってはっと我に返る。


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