ぼくらは群青を探している
「そういえば昨日テレビで肉の正しい焼き方をやってたんですけど――」

「親友を庇おうっていう心意気は買ってやる、だが今は黙れ」

「キャウン……」


 蛍さんに躾られ、桜井くんは簡単に撃沈した。それでもなお雲雀くんは無言だ。


「おい雲雀、早くしろよ。上からいくぞ」

「……別に俺も知らないんで」


 雲雀くんそこじゃない! 反論すべきはそこじゃない! ぶんぶん首を横に振る私の斜め前で、九十三先輩が頬杖をつきながら「八五」……まるで競売(きょうばい)のように数字を躊躇なく口にした。瞬間、頭の中には下着のラベルが浮かぶ。ラベルに書いてある数字は――……。


「ほーら隣で困ってる子いるよ? いいのかなぁー?」


 脅しでなく本気で当てにくるつもりだ。しかもその(あお)りが最早答えだ。九十三先輩の血も涙もない一面を知った。

 じわじわと耳が熱くなってきた横で、カタリと雲雀くんが遂に箸を置く。腕を組んだ手が白くなっていて、いかに力強く握りしめられているかが分かる。


「……報告が要るとは思ってないんですけど」

「んじゃその礼儀知らずの常識改めろ。報告が要るんだよ早く吐け」

「…………付き合いました」

「え、なに? 買い物にでも付き合ったの? ちゃんと言ってくれないと分からないんだけどなあ、誰と誰が何をどうしたの?」


 能勢さんの煽りのせいか、はたまた単純にここで白状させられることによる緊張のせいか、掘りごたつの中で雲雀くんの足が小刻みに揺れている。組んだ腕の上に載った指も震えていた。


「……三国が俺の彼女だって言ってんですよ」

「死ね。間違えた、謝れ」


 九十三先輩の目はいつになく冷ややかで、射殺さんばかりだった。


「誰に何を」

「彼女がいない全人類に謝れ」

「マジかよ三国ちゃん雲雀と付き合ったの!?」


 私の後ろに座っていた山本先輩が叫んだせいで、最早私にとっては地獄となった。焼肉そっちのけで先輩達が「詳しく!」「まずは雲雀を殺せ」と喚き始めた。


「んで、三国ちゃん。詳しく話せ」


 今まで聞いたことのない命令口調だった。


「いや……詳しく話すもなにも……ない気がするんですけど……」

「あるでしょ? なんて言って告白されたのかとか」

「てかいつだよ! お前ら公開告白断固否定しただろ!」

「おい桜井逃げようとすんな、お前も関係あるだろ」

「関係なくない? 侑生と英凜の問題じゃん!」


 こっそりテーブルを離れようとしていた桜井くんは蛍さんの躾により再び捕まった。でも確かに私達の問題なので、これは桜井くんが正しい。


「てかお前知ってんだよな? お前でもいいや、三国はいつどこでなんて言って告られたんだ」

「知らない」

「知らないじゃねーだろ知ってんだろ」

「嘘吐きは舌抜いて焼いちゃうよ?」

「怖い! やだ! でも俺がバラしたら俺が侑生に殺されるじゃん!」

「、じゃ三国ちゃんが言えばいいじゃん。三国ちゃんは雲雀くんに殺されないからさ」


 非常に合理的な発想だ。こんな時は合理的な発想もお手の物な能勢さんが憎い。


「……いえ、そういう話は……雲雀くんが言うと決めたので……」

「ほお。雲雀、洗いざらい吐きな」


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