ぼくらは群青を探している
 まるで取調べのように、蛍さんがトントンと指でテーブルを叩いた。真っ赤になっている私と雲雀くんの前で、先輩達は怒るフリしてその顔つきはニヤニヤと楽しそうだ。こんなに楽しそうな先輩達を見たことがない。いや、しいて比較対象があるとすれば、この間体育館で私と雲雀くんの関係をいじったときだ。その時と同じくらい楽しそうにしている。


「なんて告ったんだよ、言ってみな」

「……別に普通だと思いますけど」

「雲雀くん顔真っ赤にしちゃってさあ、意外とピュアだね。ピュアついでに手は出した? 出してない?」

「出していたらお前の手を焼く」

「なんでもかんでも焼こうとするのやめてください」

「てかいーや、先に『群青の健全なる異性交遊に関する三箇条』決めようぜ。門限は夕方五時、常に十五センチ以上離れろ、二人きりになるな、手を出していいのはAAAまで」

「四箇条になってますけど」

「AAAって何ですか……?」

「頭を撫でるまで」


 横柄な態度で言い放つ九十三先輩を能勢さんが「九十三先輩にもそんな可愛らしい発想できるんですね」と笑った。でも頭を撫でるのは……そもそも付き合ってるとか付き合ってないとか関係なく……。


「それは雲雀くん誰にでもやるんじゃ……」

「やんねーよ!」


 怒鳴られてしまってびっくり首を竦ませると、ははーん、とでも言いたげに能勢さんが口角を吊り上げたし、蛍さんも頬杖をついたまま器用に頬をひきつらせた。


「……今のなんだよ。遠回しな惚気か?」

「まあ付き合う男女なんて付き合う前からそんなもんでしょ。さっさと付き合えよって周りは思ってるもんなんですよねえ」

「つまんねー、さっさと別れろよ。三国ちゃんコイツマジで全然つまんない男だから。グラビアに欠ッ片も反応しねーから」

「それは良いところになりません?」

「つまんねーだろ!」

「俺らにとってはな」

「てかグラビアに反応しない男なんていないんだから、反応しないイコールただのムッツリ。あーやらしーやらしー。どうせ三国ちゃんにあんなことやこんなことするに決まってる」

「AAAまでだからな。頭以外を撫でたら群青が総力を挙げて潰す」

「……無理強いはしません」

「無理とかじゃねーよ手を出すんじゃねーよ。今ここで血判状(けっぱんじょう)作れ」


 いつの間にか桜井くんが一人でお肉を焼いて食べていることに気が付き、私もそっとお箸を持ち直した。もう最大の危難が顕在化(けんざいか)した後だと考えれば、この先怖いものはない。今からは何を聞かれても大丈夫だ。


「なー、なんて言ったの? なんて言ってこのカタブツ三国ちゃん口説いたの?」

「さあ……」

「おい桜井、お前知ってんだろ、早く吐け」

「俺は知らない、何も知らない。侑生が告ったってこと以外何も知らなイッテ! それはいいじゃん!」

「まあ告白は男からするべきだよね」

「えー、俺告白されてみたい」

「乙女かよ、キモチワル」

「されてみたくない? 好きな子がさあ、顔真っ赤にしてんの可愛いじゃん」

「それは別の場面でも見れるから告白じゃなくてもいいでしょ」

「はーい三国ちゃんの前でやらしー話ししないでくださーい。てかお前に好きな子とかいんの?」

「さあ?」

「てか、三国ちゃんは芳喜が好きなんだと思ってたけどなー。いいの、雲雀みたいな女顔のヤツで」

「……男女の美形っていずれも中性的な顔立ちをしているものらしいですよ」

「なに? どういう意味?」

「雲雀くんの顔をイケメンだと思ってるって話ですよ」
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