ぼくらは群青を探している
「……三国ちゃんキライ。密かに好きだったのに」
さめざめと泣くフリをされても、九十三先輩のガタイにあまりにも似合わない副詞だった。
「ていうか、桜井くんは三国ちゃんと雲雀くんが付き合った件についてどう思ってるの?」
…………そして、能勢さんは間違いなく確信的にその爆弾を投下した。ニコニコなんて聞こえてきそうな柔和な笑みが悪魔の笑みに見えた。やっぱりこの人には裏がある。そう確信できる発言だった。
体育祭の日の放課後、挙動不審な私と雲雀くんが〝それにまつわるなにか〟を話したなんて、教室に戻った桜井くんには一目瞭然だった。元から隠す気はなかったとはいえ、私の口から桜井くんに一体何をどう説明すればいいのかと頭を悩ませていたのも束の間、雲雀くんが「明日全部説明するから」と言い放ってくれたお陰で事なきを得た。その結果、今日、お店に着く前に会った桜井くんは「色々全部把握した」と私に向かって親指を立ててみせた。
で? という話だ。ドックドックと、私の心臓は口から飛び出そうな勢いで鼓動し始めた。雲雀くんが桜井くんにどうやって説明したのか、私は何も聞いていない。だから桜井くんがどう思っているのかも考えようがない。
「……どうって。侑生が束縛強かったら英凜可哀想だなーって思ってる」
もぐもぐとお肉を食べながら、桜井くんはいつもどおり表情を変えず、例えばその表情の温度感は「明日雨降ったらやだなーって思ってる」なんてものと大差ない。
一体、雲雀くんからどう説明を受けたんだ……。悶々とする私の前では「そんだけぇ? お前雲雀と三国ちゃんが付き合う意味分かってんの? 精神年齢小学生か?」当然九十三先輩がしかめっ面をした。でもちょっとだけ意地悪そうに口角は上がっている。
「雲雀と三国ちゃんがあんなことやこんなことしてもいいのかな?」
「侑生は意外とピュアだから手出さないに一票」
「絶ッ対ない。お前本当に高校一年生か? いいか三国ちゃん、絶対に雲雀の部屋に入るな。特にベッドに近付くな」
「つか家に行くな。親がいないって言われたら帰れ」
「『群青の健全なる異性交遊に関する三箇条』にデート禁止加えよ」
「最早五箇条だし、俺と三国は何を許されるんですか、それ」
「付き合ってるっていう状態は許可する。つかあぶねーな、三国、六月までラブホの意味知らなかったからな。知らないまま雲雀と付き合ってたらマジで連れ込まれて終わってたな」
「え、三国ちゃんマジ。俺が手取り足取り腰取り教えてあげよっか」
「人の彼女にちょっかい出さないでください」
「カノジョ! 雲雀が三国ちゃんのことをカノジョ呼ばわり!」
「呼ばわりつったって事実だし」
「ほーら雲雀、口開けな。先輩が炭をあーんしてあげよう」
「……この話やめませんか」
桜井くんの話もとんでもなかったけれど、派生した話もそれはそれでとんでもない。今の私は頭から湯気が出ていてもおかしくない。膝の上で両手を握りしめ、嵐が過ぎるのを耐えるがごとくじっと話が終わるのを待っていると「三国が真っ赤だ、やめよう」パンパンと群青の良心の蛍さんが手を叩いてくれた。
「話題を変える。この間、芳喜が一年特別科の女子を泣かせた件について」
「俺をやり玉にあげるのやめてくださいよ。あ、泣かせてないんだよ。勝手に泣いただけ」