ぼくらは群青を探している
「血判状持ってきたから押せよ」
あれ冗談じゃなかったの……? 呆然とする私の隣 (桜井くんの机)に座り、蛍さんは花札が広がる机の上に丸まった巨大な紙を叩きつけた。
「あ! 場が!」
「後にしろ。三国の貞操が先」
「そういうことを大きい声で言わないでくれませんか……?」
雲雀くんいじりが私への嫌がらせに思えてきた。先輩達にはデリカシーもへったくれもない。
そしてその紙には墨ででかでかと、そして無駄に達筆に『群青の健全なる異性交遊に関する十一箇条』と書いてあった。また一箇条増えている。しかも書いている途中で追加したらしく『十箇条』の横に狭苦しく『一』が割り込んでいた。
一、門限は夕方五時
一、常に十五センチ以上離れる
一、二人きりにならない
一、手を出していいのはAAAまで
一、デート禁止
一、隣に座らない
一、部屋に入らない
一、ベッドに近寄らない
一、Aより先を教えない
一、名前で呼ばない
一、集会で定期報告
……やや内容において重複するものがあるような気もしないでもないけれど、よくこんなに思いついたなと思えるほど、難癖に近い十一ヶ条だった。そして「集会で定期報告」はいかにも最後に付け加えました感が満載で、このせいで「一」を書き加える羽目になったのがよく分かった。
「ほら雲雀。判押しな」
「イヤですけど」
「なに? 三国ちゃんに手出すつもりなの?」
九十三先輩が私の机に腕と顎を乗せながら不気味な笑みを浮かべた。
「駄目だよ、俺達高校生だから。健全な高校生男女たるもの、手を繋いで恥ずかしがる甘酸っぱい青春が何よりも宝物じゃん? それ以上は卒業するまで我慢。そして卒業したら別れろ」
「諫言に見せかけたただの呪詛じゃないですか」
「いいから押せよ。押さなくてもいいけど無理矢理押させんぞ」
「押しません」
「よし、押さえろ」
「は──」
蛍さんの鶴の一声で群青の先輩達が一斉に雲雀くんにとびかかった。誇張表現ではない、本当に一斉にとびかかった。ガタガタッと椅子も机も倒れそうな勢いで揺れたし、隣に座っていた私は飛びのく羽目になったし、ターゲットの雲雀くんは椅子に座ったまま体を押さえつけられ、血判状に人差し指を無理矢理押し付けられた。ちなみに先輩達はなぜか朱肉を持っていた。よく見れば蓋には「職員室」と書かれたシールが貼ってあったので所有者 (管理者?)は明白だった。そして雲雀くんが血判状に指印を押す瞬間を、能勢さんがパシャッとそのブルーの携帯電話で撮影した。
蛍さんは雲雀くんの指印が押された血判状 (でも血ではない)を手に取って「よし、青海神社にでも飾っとくか」と満足げに頷く。嫌がらせが筋金入り過ぎる。
「さて、んじゃ真面目な話だが、今週末日曜日は集会を行うので青海神社に集合するように」
そしてくるくるとその紙を筒状に丸めながら平然と言い放つ。真面目な話もあったんだ……。
「……雲雀くんに指印を押させるために来たんじゃなかったんですね」
「指印ってなんだ」
「人差し指の印鑑ですよ」
人差し指を立ててその腹をみせると「お前本当に色んなこと知らねーのに色んなこと知ってんな」と多分ラブホを引き合いに出された。
「つか、そこまで暇じゃねーよ、俺達は受験生様だぞ」
あれ冗談じゃなかったの……? 呆然とする私の隣 (桜井くんの机)に座り、蛍さんは花札が広がる机の上に丸まった巨大な紙を叩きつけた。
「あ! 場が!」
「後にしろ。三国の貞操が先」
「そういうことを大きい声で言わないでくれませんか……?」
雲雀くんいじりが私への嫌がらせに思えてきた。先輩達にはデリカシーもへったくれもない。
そしてその紙には墨ででかでかと、そして無駄に達筆に『群青の健全なる異性交遊に関する十一箇条』と書いてあった。また一箇条増えている。しかも書いている途中で追加したらしく『十箇条』の横に狭苦しく『一』が割り込んでいた。
一、門限は夕方五時
一、常に十五センチ以上離れる
一、二人きりにならない
一、手を出していいのはAAAまで
一、デート禁止
一、隣に座らない
一、部屋に入らない
一、ベッドに近寄らない
一、Aより先を教えない
一、名前で呼ばない
一、集会で定期報告
……やや内容において重複するものがあるような気もしないでもないけれど、よくこんなに思いついたなと思えるほど、難癖に近い十一ヶ条だった。そして「集会で定期報告」はいかにも最後に付け加えました感が満載で、このせいで「一」を書き加える羽目になったのがよく分かった。
「ほら雲雀。判押しな」
「イヤですけど」
「なに? 三国ちゃんに手出すつもりなの?」
九十三先輩が私の机に腕と顎を乗せながら不気味な笑みを浮かべた。
「駄目だよ、俺達高校生だから。健全な高校生男女たるもの、手を繋いで恥ずかしがる甘酸っぱい青春が何よりも宝物じゃん? それ以上は卒業するまで我慢。そして卒業したら別れろ」
「諫言に見せかけたただの呪詛じゃないですか」
「いいから押せよ。押さなくてもいいけど無理矢理押させんぞ」
「押しません」
「よし、押さえろ」
「は──」
蛍さんの鶴の一声で群青の先輩達が一斉に雲雀くんにとびかかった。誇張表現ではない、本当に一斉にとびかかった。ガタガタッと椅子も机も倒れそうな勢いで揺れたし、隣に座っていた私は飛びのく羽目になったし、ターゲットの雲雀くんは椅子に座ったまま体を押さえつけられ、血判状に人差し指を無理矢理押し付けられた。ちなみに先輩達はなぜか朱肉を持っていた。よく見れば蓋には「職員室」と書かれたシールが貼ってあったので所有者 (管理者?)は明白だった。そして雲雀くんが血判状に指印を押す瞬間を、能勢さんがパシャッとそのブルーの携帯電話で撮影した。
蛍さんは雲雀くんの指印が押された血判状 (でも血ではない)を手に取って「よし、青海神社にでも飾っとくか」と満足げに頷く。嫌がらせが筋金入り過ぎる。
「さて、んじゃ真面目な話だが、今週末日曜日は集会を行うので青海神社に集合するように」
そしてくるくるとその紙を筒状に丸めながら平然と言い放つ。真面目な話もあったんだ……。
「……雲雀くんに指印を押させるために来たんじゃなかったんですね」
「指印ってなんだ」
「人差し指の印鑑ですよ」
人差し指を立ててその腹をみせると「お前本当に色んなこと知らねーのに色んなこと知ってんな」と多分ラブホを引き合いに出された。
「つか、そこまで暇じゃねーよ、俺達は受験生様だぞ」