ぼくらは群青を探している
「ないよねー、分かった分かった」でも胡桃は存外気に病んだ様子もなく「とにかくあたしは侑生と英凜におめでとうが言いたかった。本当に嬉しい。おめでとう。今後も末永く仲良くしてほしい。はーっ幸せお裾分けしてもらっちゃった! それだけ!」
何も分けてない……。呆然としている私の手をもう一度勢いよく振って、胡桃は教室を出て行った。雲雀くんの胡桃耐性 (しかも今日はかなりストレートに胡桃への拒絶反応を示している)に全神経が集中してしまっていたせいで、胡桃のセリフはいつも以上に頭に入ってこなかった。でも後ろの席の雲雀くんは (非常に不機嫌そうな顔であるとはいえ)今すぐ爆発しそうなほどの怒りは見せていなかったので安心した。
「……どいつもこいつも、そんなに楽しいか?」
「一から十まで他人事でみんなに利害関係ないのにね。あ、でも雲雀くんのことはみんなに利害関係あるのかな……一方的とはいえ……」
「いやフツーに他人の恋愛も面白いだろ。英凜だけだよ、そんだけ興味ないの」
「でもだって私には関係ないし……」
「お前本当にそういうところだぞ。な、桜井!」
陽菜の声で、桜井くんはやっと顔を上げる。いわく、桜井くんは数独にはまってしまったらしい。今も、授業間の休みも、なんなら授業中までも黙々と携帯電話で数独をして遊んでいる。
「あー……っとなんだっけ」
「他人の恋愛に興味ないのは英凜だけだろって話」
「俺も別にどうでもいいよ」
「まあ男子はな」
「それは男女差別だよ」私は口を尖らせたけれど、陽菜は「いやお前がおかしいだけ」と聞く耳を持たない。
「てか英凜が超優等生で侑生が頭おかしい恰好してるから色々言われるんじゃん。侑生、髪染め直したら?」
「なんで他人の恋愛沙汰を騒ぎ立てるバカのせいで俺が髪を染め直さないといけないんだよ」
雲雀くんのそのセリフには言外に「二度と騒ぐな」という力強い脅迫が籠っていた。実際、目に見える範囲の人はそっと視線を下に落としている。きっと物分かりの良い人はこれで騒ぐのをやめてくれることだろう。
なんて思っていたら、今度は次の日の放課後、担任の先生によって私と雲雀くんは揃って職員室に呼び出された。
一体何事だ……と顔を見合わせながらも職員室に行けば、担任の先生の近くには笹部くんの一件のときに私達を叱りつけた体育の先生や蛍さん達の担任だという山口先生も近くにいた。他の先生も、わざわざ近くに座ってこそいないものの、私達が入った瞬間に分かりやすく視線を向けてくれたので、気にされているらしいことは理解した。
そして、担任の先生は気まずそうに一度咳払いをする。
「えー……これはあくまで噂なので、違うなら違うと言ってもらって……」
「……雲雀くんと付き合ってるという噂なら事実です」
昨日も今日も散々色々言われていることだし、先生も「噂」なんて言っているし、話題はこれに違いない、そう推測して口にすれば、担任の先生はそのまま硬直した。いや、多分硬直していないのは「いやぁー若いな!」と相槌を打っている山口先生くらいだ。そう言っても過言でないくらい、視界の中で職員室内の動きが停止した。なんなら雲雀くんまでゆっくりと顔ごと私を見た。
「……お前、意外と堂々と言うな」
「……だって他に噂として心当たりのあるものがなかったから。それが指摘される理由は分からなかったけど」
「そういうことじゃねーんだよ」
何も分けてない……。呆然としている私の手をもう一度勢いよく振って、胡桃は教室を出て行った。雲雀くんの胡桃耐性 (しかも今日はかなりストレートに胡桃への拒絶反応を示している)に全神経が集中してしまっていたせいで、胡桃のセリフはいつも以上に頭に入ってこなかった。でも後ろの席の雲雀くんは (非常に不機嫌そうな顔であるとはいえ)今すぐ爆発しそうなほどの怒りは見せていなかったので安心した。
「……どいつもこいつも、そんなに楽しいか?」
「一から十まで他人事でみんなに利害関係ないのにね。あ、でも雲雀くんのことはみんなに利害関係あるのかな……一方的とはいえ……」
「いやフツーに他人の恋愛も面白いだろ。英凜だけだよ、そんだけ興味ないの」
「でもだって私には関係ないし……」
「お前本当にそういうところだぞ。な、桜井!」
陽菜の声で、桜井くんはやっと顔を上げる。いわく、桜井くんは数独にはまってしまったらしい。今も、授業間の休みも、なんなら授業中までも黙々と携帯電話で数独をして遊んでいる。
「あー……っとなんだっけ」
「他人の恋愛に興味ないのは英凜だけだろって話」
「俺も別にどうでもいいよ」
「まあ男子はな」
「それは男女差別だよ」私は口を尖らせたけれど、陽菜は「いやお前がおかしいだけ」と聞く耳を持たない。
「てか英凜が超優等生で侑生が頭おかしい恰好してるから色々言われるんじゃん。侑生、髪染め直したら?」
「なんで他人の恋愛沙汰を騒ぎ立てるバカのせいで俺が髪を染め直さないといけないんだよ」
雲雀くんのそのセリフには言外に「二度と騒ぐな」という力強い脅迫が籠っていた。実際、目に見える範囲の人はそっと視線を下に落としている。きっと物分かりの良い人はこれで騒ぐのをやめてくれることだろう。
なんて思っていたら、今度は次の日の放課後、担任の先生によって私と雲雀くんは揃って職員室に呼び出された。
一体何事だ……と顔を見合わせながらも職員室に行けば、担任の先生の近くには笹部くんの一件のときに私達を叱りつけた体育の先生や蛍さん達の担任だという山口先生も近くにいた。他の先生も、わざわざ近くに座ってこそいないものの、私達が入った瞬間に分かりやすく視線を向けてくれたので、気にされているらしいことは理解した。
そして、担任の先生は気まずそうに一度咳払いをする。
「えー……これはあくまで噂なので、違うなら違うと言ってもらって……」
「……雲雀くんと付き合ってるという噂なら事実です」
昨日も今日も散々色々言われていることだし、先生も「噂」なんて言っているし、話題はこれに違いない、そう推測して口にすれば、担任の先生はそのまま硬直した。いや、多分硬直していないのは「いやぁー若いな!」と相槌を打っている山口先生くらいだ。そう言っても過言でないくらい、視界の中で職員室内の動きが停止した。なんなら雲雀くんまでゆっくりと顔ごと私を見た。
「……お前、意外と堂々と言うな」
「……だって他に噂として心当たりのあるものがなかったから。それが指摘される理由は分からなかったけど」
「そういうことじゃねーんだよ」