ぼくらは群青を探している
「えー、事実なのであれば」先生はまた咳払いをして「その……君達は今年の灰桜高校普通科の……まあその、なんだ、非常に将来を嘱望(しょくぼう)されている生徒なのであって」

「成績なら落ちないと思います」

「……お前結構いい性格してるよな」


 ありがちに男女交際により勉強がおろそかになることを危惧されているのかと思って先手を打ったのだけれど、雲雀くんに白い目を向けられた。しかも、担任の先生も目を泳がせていて、なかなか本題に入っていない様子がうかがえるから、きっと私の回答は誤りだった。


「あれ? 三国ちゃんなにやってんの?」


 そんなところに、背後から九十三先輩が現れた。何事かと思ったら山口先生に「ヤマセン、これ進路希望の紙、やっと見つけたー」としわくちゃの更紙を差し出していたので、どうやら個人的に職員室に用事があっただけらしい。


「なになに? 呼び出し?」

「……そんなところです」

「あー、先生、そういうことね。分かる、俺も同じ考え」


 九十三先輩は先生の意を()んだかのような口ぶりで、うんうんと頷いてみせた。


「雲雀と三国ちゃんが付き合ってんの、校則違反だよね?」

「そんな校則ありませんけど」


 しかも九十三先輩のほうこそ、アッシュブルーの髪、ワイシャツ代わりのブルーのティシャツ、ティシャツが捲れて覗く白いベルト、しかも今日は謎の巨大なピアスまでついているし、何もかもが校則違反だ。……でも雲雀くんもワイシャツを着ている以外は大差ない恰好だった。この人達の隣にいると自分がすごく優等生に思えてくる。


「大体、九十三先輩、別にモテるんだからそんなに躍起になって別れさせようとしなくても……」

「え、俺モテるの」

「モテ……るんじゃないんですかね……? ほらラブレター貰ってましたし……」

「でも三国ちゃんが俺にパンツの色教えてくれたことなくない? 今日は? 白?」

「……はずれです」

「三国、相手にすんな」

「それねー、俺も実は当てに行きながら思ってる。三国ちゃん絶対答えてくれるからさ、当たりって言われたらやべーな興奮するなって」

「……パンツの色が分かるだけでなにがどうそんなに興奮するんですか?」

「三国、マジで話続けんな。マジで」

「そうだよ、九十三先輩に付き合ってあげるの、三国ちゃんくらいだから。本来的に付き合わなくていい話だよ」


 能勢さんの声がしたと思ったら、クラスの人数分と思しきノートの山を運びながら私達の後ろを通り過ぎたところだった。担当らしき先生のところへノートの山を置き「君らが職員室に揃ってるの、珍しいね」なんて笑いながら戻ってくる。そう言う能勢さんが職員室にいると生徒会長か何かに見えるので、やっぱり見た目は大事だ。


「なに、雲雀くん、早速三国ちゃんに手出しちゃった? 学校はだめだよ、やめときな」

「マジかよ指焼くぞ」

「出してません」


 さすがに私も閉口したし、雲雀くんの声も低くなった。本当にこの人達は雲雀くんいじりをやめない。もしかしたら先輩達は雲雀くんのことが大好きなのかもしれない。


「あー……そのことだが」


 黙り込んでいた先生が咳払いと共に戻ってきた。まさか本当に私達が不純異性交遊をしていると疑われているのだろうか……、と半信半疑で続きを待っていると「……その、さっきも言ったが、君達は非常に優秀な生徒なので、交際は高校生として良識のある範囲でね……」


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