ぼくらは群青を探している
「《んじゃ迎え行こっか? 舜がさあ、バイクの免許取ったんだよね、アイツ、誕生日四月だから!》」

「え、いや、それは大丈夫」


 免許をとるのにどのくらいかかるのか知らないけど、少なくとも若葉マーク、下手したら新芽マークを車に貼っていてもおかしくない程度には初心者であるはずだ。そんな人の後ろに乗るなんて、おそろしくてできない。しかも、桜井くんと雲雀くんなら毎日顔を合わせているからまだしも、荒神くんとは二人だと何を話せばいいのか分からない程度の関係性だ、気まずい。


「海って、藍ヶ(あいがはま)だよね?」

「《うん、それの南海岸。松の木の駐車場があるほう》」

「分かった、多分十分くらいしたら出る」

「《おっけー、分かんなかったら電話して》」


 急に電話で誰かと話していたかと思ったら出かける準備をし始めた、そんな私の様子をおばあちゃんはお茶を飲みながら見守っている。中学生のときから使っていたボディバッグにタオルを入れ始めたところで「海に入るにはまだ早かろう」なんて笑われた。


「んー、でも、なんか桜井くん達は入るみたい」

「そお。まあ、男の子は元気なんかもね。その桜井くん達の、写真を撮ってきてちょうだい」


 入学式に二人に絡まれて以来、おばあちゃんにはほぼ毎日桜井くん達の話をしていた。初日の所業を聞いたときは「気を付けなさいよ」なんて言われたけれど、実力テストの日あたりから「その桜井くんの写真はないんかね」「雲雀くんにようお礼を伝えてよ、お父さんにお世話になっとるから」とおばあちゃんの二人に対する印象は変わってきている。ちなみに荒神くんは覚えられていない。


「写真かあ……」

「その桜井くん、可愛い顔しとるんでしょ」

「うん、まあ……」


 桜井くんが雲雀くんと比べてどっちがイケメン論争をしていた、とりあえず二人ともイケメンだと答えたし、イケメンだとは思ってるけど、なんと答えるのが正解だったのかよく分かってない、そんな話をおばあちゃんにしてから、おばあちゃんは(しき)りと二人の顔を見たがっている。でも二人の写真を撮る機会などあるはずもなく、そうなれば今日は確かにいいチャンスな気はした。


「桜井くんはね、金髪がすごく似合ってるんだよね。目が茶色いからかな? なんか全体的に色素薄い感じなの。髪もふわふわで、ゴールデンレトリバーとかそんな感じ。あ、でもちっちゃいから中型犬かなあ」

「ちっちゃいんかね、その桜井くんは」

「多分……私とあんまり変わらない気がする。私よりは高いんだけど。雲雀くんはちょっと高いかも、なんか美人な狼って感じ」

「雲雀先生も、(わか)先生(せんせい)もハンサムじゃけね。息子さんも、そりゃあハンサムじゃろ」


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