ぼくらは群青を探している
 でも三国はそうじゃなかった……──その呟きが聞こえてしまったのは、雲雀くんにとって予定通りだったのか、そうでなかったのか、そこまでは分からなかった。

 ただ雲雀くんはそれきり閉口してしまって、ややあってゆっくりと立ち上がり、教室へと足を向ける。


「……話戻るけど、昴夜にはお試し期間って言ってるから」

「え?」


 急に話が戻った驚きとまるで期待を裏切られたかのようなショックで目を見開いてしまったし、素っ頓狂な声も出た。きっと雲雀くんも私がそこまで反応するとは思っていなかったのだろう、振り向きながら見開いた目をぱちくりと(またた)かせた。


「……言っちゃ、マズかったか?」

「……マズイとか……そういうことではないけど……」


 桜井くんは私と雲雀くんが付き合ってる現状について、お試し期間だと思っている。

 ……それで? それによって一体何の不都合があるのか、疑問を呈しながらも分からなかった。ただなんとなく、桜井くんにはそれを知られたくなかった。

 お試し期間だと分かっている桜井くんはどうする。どう……、どうするのだろう。一体どうする。分かっていない場合と何が違う。……何も分からなくて頭がパニックになった。


「……それ……だと……例えば胡桃に喋っちゃうとかそういうことは」

「……口留めしたし、アイツあれでも口堅いから大丈夫だろ」


 桜井くんは意外とボロボロ私に雲雀くんの秘密を話していたような……。それこそ、雲雀くんが告白したことだって雲雀くんは桜井くんに口留めしたくせに、桜井くんはあっさりと私にバラしてしまっているわけだし……。


「……私の行動って雲雀くんを通じて筒抜けに……なる……?」

「なんねーよ、俺だっていちいち話したくねーよ」


 辛うじて、桜井くんに言ってほしくなかった理由をそれらしく並べてみた。でも我ながら釈然としなかった。


「……来週、誕生日だろ」


 ……それが、なにか? 雲雀くんが告げる理由も、納得できるような分かりやすいものではなかった。


「……俺と三国が普通に付き合ってたら気使って祝わなくていいとか言いそうだろ」


 ……言うかな。言うかもしれないな。

 でも、それで? それに何か問題があるのだろうか。いや、問題がないというのは冷たい言い方かもしれないけれど、雲雀くんは何にそんなに拘っているのだろう。桜井くんが私と雲雀くんに気を使うことがどういう意味を──……。


「……お互い家で一人だからな」


 珍しく、説明足らずの短い文。要素要素をぽつりぽつりと出すだけで、それを繋ぎ合わせる糸は出さない。

 くしゃくしゃと雲雀くんは髪をかき混ぜた。


「……今、十月だったら、お試し期間なんてアイツには言わなかったかもしれない。……まあ多分言わなかったな。でも……来週誕生日だからな」


 ……ふたりにとって、互いに誕生日を祝うことは、私の知らない特別な意味を持つのだろうか。


「あー……だから、悪い、なんか当たり前のように話してたけど」雲雀くんは不意に不都合なことを思い出したように「水曜、ケーキ買ってアイツん家行くのに、普通に三国付き合わせると思う。思うつか間違いない」


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