ぼくらは群青を探している

(5)集会

 群青の集会に参加するのは、その日で三回目だった。しかも今日は学校帰りでなく休日の集合で、しかも時間を「夕方」なんて曖昧に指定されたせいで、青海神社には一番乗りになってしまった。


「……先輩達の模試が終わる時間に合わせたのに」


 九十三先輩にわざわざ模試が終わる時間を聞いた甲斐はなかったようだ。念のためメールに書かれた時間を見て、自分が来た時間が間違っていないことを確認し、(さび)れた青海神社を一望に収める。

 青海神社は、鳥居がなければ取り壊し目前の古い建物にしか見えない。社務所の窓はひび割れていて、その中が見えないように内側から古びた布が貼り付けてある。拝殿も、こんなところに拝んで神様は本当に見てるのかな、なんて思ってしまうほどボロボロだ。

 普段、先輩達はこの拝殿の前に座り込んでいる。本当に罰当たりだからやめたほうがいいと思うのだけれど、それは()くとして、先輩達がいない拝殿はいよいよその機能というか効用というか、存在意義を失っているように見えた。

 境内は、そのほとんどが木陰になっているからか、じんわりとした暑さを残しつつも風が吹くと涼しい。この場に立っていると、まるでもう夏の終わりかのような錯覚をした。

 ザリ、と背後から足音がして振り向くと、鳥居の向こうから能勢さんがやってくるところだった。きっと能勢さんもシルエットで私が分かったのだろう「三国ちゃん、早いね」なんて軽く手を挙げた。


「……こんにちは。先輩達の模試の終わる時間に合わせたつもりだったんですけど」

「模試終わった後に答え合わせでもさせられてるんじゃない? ほら、センターマークだから」


 ……言われてみれば確かに。先輩達がそんな真面目なことをするとは思えなかったけれど、先生がそう指示する可能性はある。


「……じゃあ能勢さんは計画的に早く来たんですか?」

「いや、たまたま用事が早く終わってね。俺達にとって、ここが部室みたいなもんじゃん? だから少し早いけどいいかと思って」


 そして能勢さんは拝殿の前に悠々と座り込む。「三国ちゃんも座ったら?」なんて言われても、やっぱり罰当たり感が否めない。


「……なんでここの神社に集まるようになったんですか?」

「ここはそもそも管理してた──神主さん、とか言うんだっけ? その神主さんの後継者がいなくて、別の神主さんがここを管理してて。その神主さんの息子が何代か前の群青メンバーにいたから、参拝客もいないしちょうどいいってことでここでたむろし始めたらしいよ」


 なんて罰当たりなドラ息子だ……。父親もそんなことのためにこの神社の管理を引き受けたわけじゃないだろうに……。


「でもほら、俺達、ちゃんとお賽銭もするし」

「……あれお賽銭じゃないですよね? あんな罰当たりなお賽銭見たことないですよ」


 この間、先輩達が「サッカーしようぜ」なんて言い始めたから境内(けいだい)でサッカーなんてそんな拝殿が壊れたらどうするんですかと止めたら「大丈夫、ボールは金」と意味の分からないことを口走り、あろうことかお賽銭箱に向けて五円玉を蹴る、とんでもなく罰当たりな遊びを始めた。開いた口が(ふさ)がらないとはこのことだった。先輩達の辞書に神罰はない。
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