ぼくらは群青を探している
 院長は雲雀先生、そして内科医をしているのは若先生。おばあちゃんは、雲雀くんのおじいちゃんとお父さんをそう呼んで区別していた。私は両方とも会ったことはない。


「んー、ハンサムっていうか、美人。髪型とか服装を変えたら、女の子って言われても分からないんじゃないかな」

「あら、そう」

「下手な女子より綺麗だよ、雲雀くんは」


 荷物を整えて玄関に手をかけ「じゃ、行ってくる」と振り向くと、おばあちゃんは嬉しそうに「いってらっしゃい」と笑った。


「今日は晩ご飯は?」

「……どうなんだろう。今日は帰ろうかな」

「要らんくなったら、電話をちょうだい」

「分かった、五時までには電話する」


 パーカーとティシャツとショートパンツにスニーカー。我ながら、まるで少年のような恰好をして家を飛び出る。唯一、少年らしくないところといえば、ポニーテールにしてもうなじを掠める髪と、ボディバッグのベルトが通る谷間くらいだ。

 桜井くんに言われた海岸沿いの駐車場へ行くと、二台並んだバイクの隣に桜井くんが座り込んでいた。太陽の光に金髪がきらきらと反射しているので、なによりの目印だ。何をしているのか、遠くからは分からずにおそるおそる自転車を押しながら近づくと、松の葉で文字通りひとり相撲(すもう)をしていた。


「……どうも」


 そっと覗き込むと、桜井くんはパッと顔を上げる。家を出る前に話したとおり、その金髪は今日もふわふわだ。


「お、三国。早かったな」

「そうだ、ごめん、何時くらいに着くか言ってればよかった」

「んーん、相撲やってたから大丈夫」


 桜井くんの足元には切れた松の葉がたくさん散らばっている。この様子だと、私が家を出たときにはもうここで待ってくれていたような気がした。


「……荒神くんは? っていうか、雲雀くんもいるんだよね?」

「あー、そうそう。アイツら、海入ったから砂浜に上がりたくないとかいって。じゃんけんで負けた俺が来させられたの」


 どおりで、桜井くんの足首には砂がついているはずだ。なんなら、折られたズボンの(すそ)は濡れている。プルオーバーのパーカーも、お腹のあたりに濡れた形跡があるので、きっと水をかけて遊んだのだろう。


「三国、その足、寒くねーの?」

「……だって海で遊ぶんでしょ?」

「やる気満々じゃん! 来いよ、ビーチバレーやってんだけどさ、三人だとできねーなってなったから三国呼ぼうと思って」


 完全に桜井くん達の遊び相手・四人目になっている。いささか疑問はあったけれど、桜井くんが軽い足取りで海岸へ向かうのでよしとした。

 ザァッと、寄せては返す波の音が段々と大きくなる。ゴールデンウィークの潮風は少し冷たい。(いそ)(しお)の香りもまだ薄く、海開きはまだまだ遠いことを五感で理解する。


< 43 / 522 >

この作品をシェア

pagetop