ぼくらは群青を探している

「……決別したんですか?」

「そう。よくある方向性の違いだよ、片や金と暴力でのし上がれ、片や仲間でつるめれば喧嘩は正当防衛に留める、よくある過激派と穏健派だね。当時それを主張していたトップツーが深澤(ふかさわ)(あさひ)(あお)(すじ)洋平(ようへい)で、二人が喧嘩して、出来上がったのが深緋と群青。もともと喧嘩別れしてできたんだから、そりゃ仲悪いよね。できたのは群青のほうがやや早かったんだっけな」


 ……体育館横で九十三先輩と話したときのことを思い出す。蛍さんと服部先輩だって、方向性の違いで冷戦状態のはずだ。ただの昔話で終わる話ではない。


「ま、他にもいろいろ噂はあるけどね。そのトップツーが姫を取り合って青条にとられたから怒った深澤がチームを抜けたとか」

「群青と深緋の来歴ってそんな幕末まで遡るんですね」

「いや姫っていうのは本物の姫じゃなくてあくまでたとえ。そのくらい大事にされるというかちやほやされるというか。たとえというか揶揄(やゆ)?」


 そういえばそんな話を当初雲雀くんと桜井くんから聞いた覚えがあった。それこそ蛍さんの彼女は姫と呼ばれるべきだとかなんとか……。でもトップツーが姫を取り合うということは、トップの彼女が姫と呼ばれるわけではないのだろうか。いやそこは鶏が先か卵が先かという話だろう。


「たとえば、雲雀くんと桜井くんが三国ちゃんを取り合って喧嘩しちゃって、灰桜チームと朱雀チームに分かれるとか」


 群青と深緋と同じく色になぞらえ、しかも青条と深澤が名前から一字取ったのと同じく桜井くんと雲雀くんから一字取る、その的確さには脱帽とおりこして恐怖を覚える。やっぱり能勢さんは少し怖い。

 ただ、それよりなにより、能勢さんのそれは縁起でもなければ、(つゆ)ほどの可能性もないことだった。


「……別に、そういうことは起こらないと思いますけど」

「結局、雲雀くんと付き合ったんだね」能勢さんは煙草を咥えたまま口端をつりあげて「いいと思うよ。先輩達と一緒にからかってるけど、実はわりと祝福してるし、応援もしてる」

「……なんでですか?」


 祝福をした人間といえば胡桃とか、荒神くんとか中津くんが浮かぶけれど、三人は (胡桃は一方的だけど)雲雀くんと仲が良い。だから「自分のことのように喜ぶ」という表現があてはまるのは分かるけれど、能勢さんにそれが当てはまるのはよくわからなかった。


「言ったでしょ、雲雀くんは三国ちゃんの周りの男子ではベストなんじゃないかって」

「……ベストとは」

「三国ちゃんと雲雀くんは波長合うんじゃない、ってだけだよ。会話のテンポとかね」

「会話のテンポ……」


 実際、雲雀くんは話が早いし、私を読み取ってくれるし、楽だなとは思った。でもベストと言われると、そこまで言えるか判然としない。私が会話が合うと一番感じているのは雲雀くんなのだろうか……。


「三国ちゃんって、周りが馬鹿に見えないの?」

「へ」

「俺はコイツ馬鹿だなって思う相手、結構いるよ」


 とんでもないセリフに目を丸くする私など意にも介さず、能勢さんは世間話のような口調でそのまま続ける。


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