ぼくらは群青を探している
やってきた雲雀くんが私の隣、その隣に桜井くんが腰を下ろす。それ自体には問題はなかったのだけれど、桜井くんは参道の真ん中に座ることになった。ついじろじろと見ていると「なに?」と人懐こい目が私を見る。桜井くんと目が合うのは、なんとなく久しぶりな気がした。
「……クリスチャンじゃないの?」
「俺が? 違うよ、母さんはそうだったけど。なんで?」
「……参道の真ん中は神様の通り道じゃん」
「大丈夫大丈夫、俺は神様信じてないから」
そういう話……? もちろんキリスト教信仰と各神社の神様の信仰とは全く違うものだけれど、特定の神を信仰する以上は他の神様の存在を尊重するとか……そういうことはないのだろうか。でも神社仏閣なんて日本特有だし、別に青海神社の神様が誰なのかも知らないし、そんなものを漠然と信じているのはまさしく日本人特有……?
うーん、と首を捻る私の隣では「ていうか桜井くんがクリスチャンじゃないの、わりと自明じゃない?」と能勢さんがどうせ私には理解の及ばない推理をしている。
「えー、なんで?」
「クリスチャンは婚前交渉禁止でしょ」
「……能勢さんそれ英凜の横で言っちゃだめ」
「雲雀くんと付き合ったんだからバレるでしょ」
「侑生、信じてるからな! 英凜に余計なこと教えんなよ!」
「……本当にうるせ」
「誓って! お願い!」
わーん、と喚くふりをして腰にしがみつきイヤイヤと頭を振るのを、雲雀くんは心底鬱陶しそうな顔で「暑い」とその金髪を押さえつけて押し戻そうとする。それはただの微笑ましい図であるはずなのに、うずっ……と私も桜井くんの頭を触ってみたい衝動に駆られた。でも我慢した。
「桜井くん、かわい子ぶるねえ……それが通用するの、あと半年くらいだよ」
「えー、俺はまだまだもっとずっと可愛いと思ってるんだけど」
「その心意気がある間は可愛いかもね」能勢さんは笑いながら「でも一八〇センチくらいになったらさすがに可愛くないんじゃない?」
「え、そうなのかな。身長は伸びたいけど可愛いままでいたい。これがジレンマ! むむっ!」
その擬態語のとおりに眉間に皺を寄せて腕を組んでみせるその姿は、確かに可愛い。これが一八〇センチ近くになっても……可愛いのだろうか。同じく一八〇センチ近い能勢さんについ視線を向けるけれど、大人の色気こそあれ可愛いとは程遠い。
「三国ちゃん的には? 背が伸びても桜井くんは可愛い?」
「……どうなんでしょう……身長はただの一要素であって必要条件でも十分条件でもない気はしますが……」
九十三先輩は……可愛くはない。見上げるほどに大きい。言動は桜井くんに近いものがないではないけれど、可愛くはない。やっぱり一八〇センチまでいくとアウトだ。現に一七〇センチそこそこの雲雀くんは可愛いところがある。
「一八〇センチは……さすがに可愛くないんじゃないですかね……」
「えー、じゃあ売り方変えなきゃ……」
「伸びない可能性もあるでしょ」
「伸びるもん」
「てか能勢さん煙草やめません」
「雲雀くん、煙草嫌いだっけ」
「吸わない人間で好きな人間いないと思いますよ」
「それもそうか」
そういえば能勢さんはどこに煙草を捨てる気なのだ、と素早く振り返ったら携帯灰皿を持っていた。ちょっとだけ安心した。
そのあたりから、ぱらぱらと二年生の先輩達が集まり始めた。先輩達が重い思いに拝殿に腰掛ける中、二年生の中で最後にやってきたのは常盤先輩と滝山先輩だった。
「……クリスチャンじゃないの?」
「俺が? 違うよ、母さんはそうだったけど。なんで?」
「……参道の真ん中は神様の通り道じゃん」
「大丈夫大丈夫、俺は神様信じてないから」
そういう話……? もちろんキリスト教信仰と各神社の神様の信仰とは全く違うものだけれど、特定の神を信仰する以上は他の神様の存在を尊重するとか……そういうことはないのだろうか。でも神社仏閣なんて日本特有だし、別に青海神社の神様が誰なのかも知らないし、そんなものを漠然と信じているのはまさしく日本人特有……?
うーん、と首を捻る私の隣では「ていうか桜井くんがクリスチャンじゃないの、わりと自明じゃない?」と能勢さんがどうせ私には理解の及ばない推理をしている。
「えー、なんで?」
「クリスチャンは婚前交渉禁止でしょ」
「……能勢さんそれ英凜の横で言っちゃだめ」
「雲雀くんと付き合ったんだからバレるでしょ」
「侑生、信じてるからな! 英凜に余計なこと教えんなよ!」
「……本当にうるせ」
「誓って! お願い!」
わーん、と喚くふりをして腰にしがみつきイヤイヤと頭を振るのを、雲雀くんは心底鬱陶しそうな顔で「暑い」とその金髪を押さえつけて押し戻そうとする。それはただの微笑ましい図であるはずなのに、うずっ……と私も桜井くんの頭を触ってみたい衝動に駆られた。でも我慢した。
「桜井くん、かわい子ぶるねえ……それが通用するの、あと半年くらいだよ」
「えー、俺はまだまだもっとずっと可愛いと思ってるんだけど」
「その心意気がある間は可愛いかもね」能勢さんは笑いながら「でも一八〇センチくらいになったらさすがに可愛くないんじゃない?」
「え、そうなのかな。身長は伸びたいけど可愛いままでいたい。これがジレンマ! むむっ!」
その擬態語のとおりに眉間に皺を寄せて腕を組んでみせるその姿は、確かに可愛い。これが一八〇センチ近くになっても……可愛いのだろうか。同じく一八〇センチ近い能勢さんについ視線を向けるけれど、大人の色気こそあれ可愛いとは程遠い。
「三国ちゃん的には? 背が伸びても桜井くんは可愛い?」
「……どうなんでしょう……身長はただの一要素であって必要条件でも十分条件でもない気はしますが……」
九十三先輩は……可愛くはない。見上げるほどに大きい。言動は桜井くんに近いものがないではないけれど、可愛くはない。やっぱり一八〇センチまでいくとアウトだ。現に一七〇センチそこそこの雲雀くんは可愛いところがある。
「一八〇センチは……さすがに可愛くないんじゃないですかね……」
「えー、じゃあ売り方変えなきゃ……」
「伸びない可能性もあるでしょ」
「伸びるもん」
「てか能勢さん煙草やめません」
「雲雀くん、煙草嫌いだっけ」
「吸わない人間で好きな人間いないと思いますよ」
「それもそうか」
そういえば能勢さんはどこに煙草を捨てる気なのだ、と素早く振り返ったら携帯灰皿を持っていた。ちょっとだけ安心した。
そのあたりから、ぱらぱらと二年生の先輩達が集まり始めた。先輩達が重い思いに拝殿に腰掛ける中、二年生の中で最後にやってきたのは常盤先輩と滝山先輩だった。