ぼくらは群青を探している
常盤先輩が「永人さん達、まだ?」「まだ。就職組は来てもいいのにね」と能勢さんとやり取りして、拝殿の手すりに背中を預けた。
「就職組って誰?」
「庄内先輩とか山本先輩とか。進学組数えるほうが早いかな、永人さんと九十三先輩と、あと川西先輩、岡町先輩の四人が進学組だから、残りは就職組だね」
「フーン」
「桜井、進学すんの」
「うーん、迷い中」
常盤先輩の質問に、桜井くんはゆらゆらと膝を抱えたまま器用にその場で揺れる。
「勉強は嫌いだしー、でも侑生も英凜もどうせ進学するんだろうしー、仲間外れはやだしー、父さんも大学は行くだろみたいな感じだしー、でもやっぱり勉強嫌いだしー……」
「胡桃ちゃんとかは? あの子進学組だろ、一緒のとこ行きたくないのか」
常盤先輩はちょっとだけからかうように口角を吊り上げ、隣の滝山先輩は「あー、あるよね、そういうの」とぼやくような相槌と共に眼鏡を押し上げる。でも桜井くんは首を捻った。
「いや……。そもそもアイツ行きたいのってなんかすごい大学らしいし。俺そういうとこ行けないし。あと京都にあるらしいんだよね、俺京都に興味ないもん」
「そういう話じゃなくね?」
「可愛い幼馴染と同じ大学なんて夢があるじゃん、って話だよ」
能勢さんが補足しても、桜井くんは首を捻るばかりだ。
「さあ……。っていうか大学まで一緒だとマジで姉貴面してきそうじゃん、めんどい」
「胡桃ちゃんに姉貴面してもらって悪いことはないだろ」
「えー、悪いよ、悪い。てかマジで先輩らみんな胡桃の本性知らなすぎ。要らないって言ってんのに飯持ってくるし、ヤダつってんのに勉強教えようとするし、あと話つまんなくない?」
「女の子の話なんて九割方散文的でつまらないでしょ」
肩を竦める能勢さんに常盤先輩が不思議そうに「んじゃお前女子引っ掛けるとき何の話してんの?」と尋ねれば「話すことはないよ、聞いてるだけ。そもそも引っ掛かりにくる子が喋りたがりだから、聞き手に回れば話は早い」能勢さんは表情を変えずにしれっと返す。
「合コンのさしすせそってあるだろ。あれと似たようなもんで、相手の言ってることを換言して反芻して、そこに大変だねとか頑張ったねって感情を表す何かを付け加えれば勝手に気持ちよくなってくれるから。たまに関連エピソードを付け加えたりそこから質問作るとなおよし」
「すんげぇクズ男テクきたな」
常盤先輩は嘲笑のような笑みを浮かべているけれど、私は目から鱗が落ちた。なるほど、そうすれば相手と上手く会話を続けることができて、なおかつ相手は気分が良いのか……!
「……能勢さん、今の話もう少し詳しく聞いてもいいですか?」
「何するつもりだよ三国、お前には雲雀がいるだろ」
しっし、と常盤先輩は手を払う。厳ついのでたったそれだけの仕草が結構怖いのだけれど、今はそんなことを言っている場合ではない、慌てて雲雀くんを振り向き「いえその、特別に好かれようとかそういうことではなく」と手を横に振れば「三国はどんなに媚びようが最終的に残念な形で口を滑らせるので大丈夫です」……謎のフォロー……をされた……? いや悪口……? 首を傾げたまま常盤先輩に向き直る。
「だから……その、人としてまともな程度に会話を続けるための一手段として……」
「まともじゃないから、クズテクだから、コイツの言うのは」
「まーまー、いいじゃん渚、三国ちゃんが知りたがってるんだし。とりあえず合コンのさしすせそ、分かる?」
「就職組って誰?」
「庄内先輩とか山本先輩とか。進学組数えるほうが早いかな、永人さんと九十三先輩と、あと川西先輩、岡町先輩の四人が進学組だから、残りは就職組だね」
「フーン」
「桜井、進学すんの」
「うーん、迷い中」
常盤先輩の質問に、桜井くんはゆらゆらと膝を抱えたまま器用にその場で揺れる。
「勉強は嫌いだしー、でも侑生も英凜もどうせ進学するんだろうしー、仲間外れはやだしー、父さんも大学は行くだろみたいな感じだしー、でもやっぱり勉強嫌いだしー……」
「胡桃ちゃんとかは? あの子進学組だろ、一緒のとこ行きたくないのか」
常盤先輩はちょっとだけからかうように口角を吊り上げ、隣の滝山先輩は「あー、あるよね、そういうの」とぼやくような相槌と共に眼鏡を押し上げる。でも桜井くんは首を捻った。
「いや……。そもそもアイツ行きたいのってなんかすごい大学らしいし。俺そういうとこ行けないし。あと京都にあるらしいんだよね、俺京都に興味ないもん」
「そういう話じゃなくね?」
「可愛い幼馴染と同じ大学なんて夢があるじゃん、って話だよ」
能勢さんが補足しても、桜井くんは首を捻るばかりだ。
「さあ……。っていうか大学まで一緒だとマジで姉貴面してきそうじゃん、めんどい」
「胡桃ちゃんに姉貴面してもらって悪いことはないだろ」
「えー、悪いよ、悪い。てかマジで先輩らみんな胡桃の本性知らなすぎ。要らないって言ってんのに飯持ってくるし、ヤダつってんのに勉強教えようとするし、あと話つまんなくない?」
「女の子の話なんて九割方散文的でつまらないでしょ」
肩を竦める能勢さんに常盤先輩が不思議そうに「んじゃお前女子引っ掛けるとき何の話してんの?」と尋ねれば「話すことはないよ、聞いてるだけ。そもそも引っ掛かりにくる子が喋りたがりだから、聞き手に回れば話は早い」能勢さんは表情を変えずにしれっと返す。
「合コンのさしすせそってあるだろ。あれと似たようなもんで、相手の言ってることを換言して反芻して、そこに大変だねとか頑張ったねって感情を表す何かを付け加えれば勝手に気持ちよくなってくれるから。たまに関連エピソードを付け加えたりそこから質問作るとなおよし」
「すんげぇクズ男テクきたな」
常盤先輩は嘲笑のような笑みを浮かべているけれど、私は目から鱗が落ちた。なるほど、そうすれば相手と上手く会話を続けることができて、なおかつ相手は気分が良いのか……!
「……能勢さん、今の話もう少し詳しく聞いてもいいですか?」
「何するつもりだよ三国、お前には雲雀がいるだろ」
しっし、と常盤先輩は手を払う。厳ついのでたったそれだけの仕草が結構怖いのだけれど、今はそんなことを言っている場合ではない、慌てて雲雀くんを振り向き「いえその、特別に好かれようとかそういうことではなく」と手を横に振れば「三国はどんなに媚びようが最終的に残念な形で口を滑らせるので大丈夫です」……謎のフォロー……をされた……? いや悪口……? 首を傾げたまま常盤先輩に向き直る。
「だから……その、人としてまともな程度に会話を続けるための一手段として……」
「まともじゃないから、クズテクだから、コイツの言うのは」
「まーまー、いいじゃん渚、三国ちゃんが知りたがってるんだし。とりあえず合コンのさしすせそ、分かる?」