ぼくらは群青を探している
「……さらに、しかし、すべからく、……せ?」
「接続詞の話じゃないから。相手を褒める形容詞の話だから。まあ三国ちゃんは男だったら女の子たらす才能あったかもね、ほら記憶力いいし」
能勢さんは立ち上がって拝殿の隅まで行き、煙草に火をつける。雲雀くんがしかめっ面をすれば「臭ったら言って、離れるから」と申し訳なさそうな顔で返した。そして能勢さんが話していたとおり、常盤先輩も能勢さんの隣へ行き、煙草を取り出す。こうしてみると本当にヤンキーだ。
「女の子はね、話を聞いておいてほしい生き物だから。よく覚えてることはよく聞いてるってことになるから喜ばれるよ」
「……陽菜が喜んでくれたことはない気がします」
「三国の言い方の問題だろ。いつどこでなにしてるときに既に一度聞いた、なんて言い方されたってただ記録見せられてるようにしか思えねーよ」
……雲雀くんは難しいことを言う。首を捻っていると「この間も言ってたね、とかでもいいんだけど。相手が喋ったことを完全に忘れてるようなら、その当時相手が言ってた気持ちを言ってあげるといいかな。そうすれば共感してるように聞こえるから」と能勢さんからアドバイスがとんできた。常盤先輩と雲雀くんが揃って「……本当にお前クズだな」「女の子を落とす以外に使えばいいのに、そのテク……」と冷ややかな目を向けている。
「なるほど……」
「三国、感心すんのやめね」
「でも……人と話すときに役立つし……」
「三国が男を手玉にとるのは見たくないな」
常盤先輩は眉間に皺をよせながら「大体群青に女の子いるのも──いや、三国はいいんだけど。お前雲雀とくっついたし」私を見て慌てて付け加えながらも、意味深なことを口走る。
「フリーの女の子いたら絶対揉めるだろ。胡桃ちゃんとかいてみろ、みんな気使うし、芳喜が食ってポイして傷心で桜井とくっついてでも裏でアサヒが片思いしてるとか、余裕で想像つくだろ。クソドロドロしてもめて群青がやべーことになる」
……よく分からなかったけど、例によって傾国の美女の論理だ。そう考えると、私は胡桃みたいな特別な美少女でなくてよかったのかもしれない。とはいえ、私が落ち込んだら先輩はアイスをくれるくらいはしてくれるわけだけれど……。
「……俺はあの手の女の子は無理だから有り得ないかな」
滝山先輩のボソボソとした返事を「いやいや、アサヒは女耐性ないからコロッといきそう」常盤先輩がからかった。その隣では桜井くんが「てか能勢さんに食われた後の女の子、絶対付き合いたくなくない?」とげんなりしたような膨れっ面をする。
「なんか色々比べられそうだし……」
「いやお前は幼馴染だろ、心配してやんな」
「幼馴染みたって家が前ってだけじゃん。やだよー、俺アイツと付き合うの」
「……ずっとそう言ってるけど、なにがそんなにイヤなの?」
「え、そんな俺責められるようなこと言ってる?」
「いやごめん、責めるつもりはなくて……」
ついつい桜井くんと常磐先輩の会話に割り込んでしまったうえに、言い方が悪かった。桜井くんが怪訝な顔をするのももっともだ。
「その……素朴な疑問……? 桜井くんはヤダって言うけど、可愛いし、昔から知ってて今でも仲がいいし……付き合うのがイヤな要素なんてないんじゃないかなって……」
「えー、えー。なんでって言われても」
「三国もそう思うよなあ。桜井、バカすぎてありがたさが分かんねえんだろ」