ぼくらは群青を探している
「えー、本当にそんないいもんじゃないよ、幼馴染って。英凜って幼馴染とかいないの?」

「うん、いない」


 頷く私をよそに「よかったな、雲雀」「なにがですか」「幼馴染なんていたら強敵出現だろ」「別にそんなことないです」「強がってんなよ」常盤先輩が雲雀くんをからかっていた。本当にこの人たちはなんでもネタにする。


「てか英凜って初恋とかあんの?」

「え、普通に人並みに……小学生のときとか……」

「マジ。どんな男子?」

「……ありがちにクラスの中心の人気者みたいな……今思えば悪ガキ……?」


 最近もこんな話をした気がすると思ったら、海に行ったときに胡桃に話したのだった。その時のことを思い出しながら「ほら、私は陰気な性格だから……陽気な、自分と対照的な性格の人に惹かれたんじゃないかな……?」と過去を顧みながら分析する。


「へーえ。英凜って小学生の頃から優等生っぽいのに、なんか意外」

「優等生というか、陰気で大人しかっただけだから……そういう意味では二人に憧れたのと似てるのかも……」

「だってさ、雲雀」


 煙草はもういいのか、火を消した常盤先輩は戻ってきて雲雀くんの肩に手を置いた。


「お前結構桜井と同列だな。元気だせよ」


 ……! しまっ、た……!? ぶわっと脂汗が流れるのを感じた。そうか、今となっては私は雲雀くんの彼女、そして彼氏彼女といえば──陽菜の指導を思い出す──とにかく相手を特別扱いすることが大事。夏休み時点では口にしても何の問題もなかった「桜井くんと雲雀くんに憧れた」は今となっては雲雀くんを特別扱いしていないという点で問題があるに違いない。


「い、いや、でもそれはその、なんか群青に入ることになるほど二人にくっついてた理由みたいな……」

「ていうか三国ちゃんの初恋、雲雀くんと全然タイプ違うんだね」


 能勢さん……! 祝福しているし応援もしているというさっきの言葉はどこへやら、思いっきり意地悪なつつき方をしてきた。私だって考えればそのくらい分かる、曲りなりにも今の彼氏の前で以前好きだった人の話なんてしてはいけないと……! ただし考えないと分からないあたり、やっぱり私の頭は悪い。

 そして実際、思い出してみれば、小学生のときの初恋の人と雲雀くんは全然タイプが違う。いや、そもそも雲雀くんみたいにクールな子供なんてマセガキでしかないので、そんな子供がいるわけないのだけれど。


「で、でも、その、悪ガキタイプって言っても、頭が良かったんですよ! 宿題とかすごく忘れるのにテストはちゃんと全部満点みたいな! だ、だからその、昔から頭の良い人が好きだったんだなとは……!」

「じゃ、三国ちゃんは雲雀くんの頭のいいところが好きなわけだ」


 ……やめてほしい。人の必死の弁解をあげつらってそんな風にからかうネタにするなんて、本当にやめてほしい。


「……三国いじめんのやめてもらえます?」

「お、庇ってあげて恰好いいねえ、雲雀くん。不安になったらいつでも俺に相談しな」

「芳喜はやめとけよ、コイツに話したってろくなことになんねえ」


 いいからとにかくこの話題が早く終わってくれますように……と一心に祈っていると、その祈りが通じたのか、鳥居の向こうに四、五人の姿が見えたのでほっと胸を撫で下ろした。しかも「あれマジで意味分からなくなかった? 呪文かよって」「正直勘で書いたほうが合ってた」「鉛筆買おうかなー」と声が聞こえたので、蛍さん達のご到着だ。


「みーくーにちゃーん」


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