ぼくらは群青を探している


「……お前、三国の前で明け透けに話すんじゃねーよ」

「それより前に雲雀が三国ちゃんに触ってることを怒るべきじゃね?」

「んなわけねーだろ、臨機応変だ」


 雲雀くんの両手が離れた。雲雀くんの手が温かいので、冷房で冷えている耳がちょっと温められて気持ちがよかった。


「……なにしてる三国」

「え。なんか耳が温まっていいなと」


 その耳を手で触っていると、蛍さんの手の中でボキリと割り箸が折れた。


「……九十三は余計なこと喋るし、雲雀は公共の場でイチャつくし、マジでどうなってんだ」

「これは三国のためなんで」

「三国が満足そうに耳を触ってるのが問題なんだよ」

「……別に満足そうに触ってるわけじゃ」

「鏡見て言いな」

「……だって雲雀くんの手が温かかったので」

「手が温かいヤツって心が冷たいんじゃない? 雲雀と別れたほうがいいんじゃない?」

「ただの筋肉量の問題じゃないですか。男の手は大抵温かいもんだと思いますよ」

「じゃー俺の手のほうが温かいんじゃない? 三国ちゃんは今度から俺が温めてあげるね」

「俺よりアンタの言動のほうがよっぽどAAA超えてるし問題あるでしょ」


 ……桜井くんの手は温かいのかな。温かそうだな。私には関係のないことだけれど。

 お店を出るとき、蛍さんと九十三先輩は「雲雀、三国送れよ」「帰り道だけは二人きりを許す!」「ただし親がいなければ家には上がるな」と言い含めて帰って行った。


「……雲雀くん、まだバスあるし、一人でいいよ」

「バス停から家は一人だろ。いいよ別に、暇だし、明日も休みなんだし」


 雲雀くん一人なら駅までほんの数分歩いてそこから電車で一本で帰れるのに、私のせいで遠回りをさせることになるのは申し訳ない。というか、バス代も勿体ない。


「……歩くのとどっちがいい?」

「……三国がいいなら歩くか」


 帰り道はリーンと鈴虫の鳴く声が聞こえていて、もう私達が秋の入口に立っていることを教えてくれる。実際、夕暮れ時は少し暑かったけれど、今はすっかり風も涼しくなっていた。


「……なんで鈴虫は『鳴き声』っていうんだろう」

「全部そうじゃね。セミもホトトギスも犬も」

「……そっか、蚊とか羽音だもんね」

「音だろうが声だろうが、セミはうるせーけどな」

「あれなんであんなに鳴くんだろ。求愛なのかな」

「なんじゃね。生き物の存在アピールって大体そのイメージ」

「うるさい声で求愛されても響かないけどな……」

「虫だの鳥だのの求愛行動にそんなこと言ったって仕方なくね」


 話している途中で、話題選択をミスっていることに気付いた。どう派生してしまうか分からないんだから、そんな話はしないほうがいい。


「……そういえば、能勢さんが雲雀くんのことをすごく頭が良いって褒めてて」


 かといってこれも何の話の流れかと言われると困るやつだ。ただ、雲雀くんが「……能勢さんに言われてもな。なんか裏ありそうだし」と微妙な反応をしたことで「能勢さんの裏といえば」都合のいい連想をできた。


「体が弱い云々っていう話あったじゃん。あれ、九十三先輩も知ってたんだよね」


 体育祭以来、雲雀くんとは別の問題があってろくにこの話ができていなかったので丁度いい。


「というか……全体的に私の考えすぎだったのかも……」

「能勢さんだけじゃなくて蛍さんも別に怪しくないんじゃね、ってことか?」

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