ぼくらは群青を探している
「そう……。っていうか、九十三先輩いわく、私の体が弱いなんて噂あるけどあれただの噂で勘違いだろうな、って話をみんなでしてたらしいから、それが本当に番狂わせっていうか、前提をひっくり返す最悪の事実。いや最悪じゃないんだけど、今までの推論が全部水泡に帰したっていうか」
私の〝体が弱い〟なんて、知ってるのは荒神くん、陽菜または新庄の三択で、荒神くんと陽菜が他人に漏らさない以上、新庄から聞いたとしか考えられない。だからそれを知っている蛍さんと能勢さんは、少なくともどちらかが新庄と組んでいる可能性があった。
でも九十三先輩が「みんな知ってるけどただの噂だと思ってる」なんて口にした。しかもあの口ぶり、新庄の一件がある前から知っていたとしか思えない。ということは、蛍さんと能勢さんにその情報が行き渡る方法は、新庄以外にもある。
「結局、私の〝体が弱い〟なんて話はなんの意味もなくて、今はあの夏祭りの日に陽菜をナンパした二人組と群青の誰かが繋がってるって情報しかない。そうなると蛍さんと能勢さんに限って疑ってかかるのは軽率というか、早計というか。しかも群青トップ二なんて、例えば服部先輩とかよりも動機がないだろうし……」
蛍さんと冷戦状態の服部先輩が、今でもNo.1に選ばれなかったことを根に持っているのだとしたら、蛍さんのお気に入り説のある私を陥れようとしてもおかしくはない。……実際、私を可愛がってくれる先輩はみんな、見ている限り親蛍さん派に違いない。
「動機がないから容疑もない、なんていうのが尚早だっていうのは分かってる。他人の内心なんて知り得ないんだから、『動機がない』ように見えるんだとしたらそれは『動機を推論するのに十分な情報を手に入れていない』だけ……動機がないから自分は白ですなんて、ミステリーで追い詰められた真犯人くらいしか言わないのはそういうことなのかもね」
だから、「犯人はあなただ」なんて誰かを指さすことなんて、今の私にはできっこないのだ。ミステリー小説を書くにはあまりにも情報が足りないし、きっと私の行動力も足りていない。
「……でもそれは容疑者を絞れないってだけだろ。群青の先輩らが怪しいことには変わりない」
「そうなんだけど……なんだか、怪しいにしては先輩達の行動があんまりにも……」
矛盾する、と言いかけて、それが言い訳じみていることに気が付いて一度閉口した。
こんなふうに思考をこねくり回すのは、そしてそれを次々と雲雀くんと桜井くんに吐き出すのは、「お前の推論は間違ってる」と私の気付いていない穴を見つけてもらいたいからだ。
「……というか、端的に、私が先輩達を好きだから、あんまり疑いたくないだけ」
私は犯人捜しをしたいんじゃない。どう考えたって疑う余地なく先輩達は《《白》》《《だ》》と確信したいだけだ。
「中学生のとき、委員会とかで先輩との関わりはあったんだけど、そこで関わってた先輩のことはあんまり好きじゃなかったんだよね」
「なんかイヤなことされたのか」
「そういうわけじゃないんだけど……なんかやたら口うるさくて雑用させられた記憶しかないみたいな……」
「ああ、まあ、中学の先輩にありがちだな」
「群青の先輩は、先輩だからすることと後輩だからしてあげることがそれぞれちゃんとあって……対価関係があるっていうのかな、先輩のいいとこどりをしてないみたいな」
私の〝体が弱い〟なんて、知ってるのは荒神くん、陽菜または新庄の三択で、荒神くんと陽菜が他人に漏らさない以上、新庄から聞いたとしか考えられない。だからそれを知っている蛍さんと能勢さんは、少なくともどちらかが新庄と組んでいる可能性があった。
でも九十三先輩が「みんな知ってるけどただの噂だと思ってる」なんて口にした。しかもあの口ぶり、新庄の一件がある前から知っていたとしか思えない。ということは、蛍さんと能勢さんにその情報が行き渡る方法は、新庄以外にもある。
「結局、私の〝体が弱い〟なんて話はなんの意味もなくて、今はあの夏祭りの日に陽菜をナンパした二人組と群青の誰かが繋がってるって情報しかない。そうなると蛍さんと能勢さんに限って疑ってかかるのは軽率というか、早計というか。しかも群青トップ二なんて、例えば服部先輩とかよりも動機がないだろうし……」
蛍さんと冷戦状態の服部先輩が、今でもNo.1に選ばれなかったことを根に持っているのだとしたら、蛍さんのお気に入り説のある私を陥れようとしてもおかしくはない。……実際、私を可愛がってくれる先輩はみんな、見ている限り親蛍さん派に違いない。
「動機がないから容疑もない、なんていうのが尚早だっていうのは分かってる。他人の内心なんて知り得ないんだから、『動機がない』ように見えるんだとしたらそれは『動機を推論するのに十分な情報を手に入れていない』だけ……動機がないから自分は白ですなんて、ミステリーで追い詰められた真犯人くらいしか言わないのはそういうことなのかもね」
だから、「犯人はあなただ」なんて誰かを指さすことなんて、今の私にはできっこないのだ。ミステリー小説を書くにはあまりにも情報が足りないし、きっと私の行動力も足りていない。
「……でもそれは容疑者を絞れないってだけだろ。群青の先輩らが怪しいことには変わりない」
「そうなんだけど……なんだか、怪しいにしては先輩達の行動があんまりにも……」
矛盾する、と言いかけて、それが言い訳じみていることに気が付いて一度閉口した。
こんなふうに思考をこねくり回すのは、そしてそれを次々と雲雀くんと桜井くんに吐き出すのは、「お前の推論は間違ってる」と私の気付いていない穴を見つけてもらいたいからだ。
「……というか、端的に、私が先輩達を好きだから、あんまり疑いたくないだけ」
私は犯人捜しをしたいんじゃない。どう考えたって疑う余地なく先輩達は《《白》》《《だ》》と確信したいだけだ。
「中学生のとき、委員会とかで先輩との関わりはあったんだけど、そこで関わってた先輩のことはあんまり好きじゃなかったんだよね」
「なんかイヤなことされたのか」
「そういうわけじゃないんだけど……なんかやたら口うるさくて雑用させられた記憶しかないみたいな……」
「ああ、まあ、中学の先輩にありがちだな」
「群青の先輩は、先輩だからすることと後輩だからしてあげることがそれぞれちゃんとあって……対価関係があるっていうのかな、先輩のいいとこどりをしてないみたいな」