ぼくらは群青を探している
 上手く説明できなかったけれど、雲雀くんの表情が怪訝に変わることはなかった。むしろ「それはそうかもな」とすんなり頷いてくれた。


「それこそ(レイブン・)(クロウ)の件とか、三年がやるぞつってるから、俺らに拒否権はない。代わりに──それこそ俺と三国が黒烏の連中に侮辱されたってなったら、三年が『うちの後輩馬鹿にしてんじゃねえぞ』って出て行く」

「そう、そういう。私達は先輩に従わないといけないけど、代わりに先輩は私達を守ってくれる」


 雲雀くんが一番最初に話していた、群青は上意(じょうい)下達(かたつ)がしっかりしているということに関係する。あれはきっと群青の先輩達の関係性ありきで上手く機能していることだ。

 ただ、そういうのは、あくまで先輩達の好きなところの一つであって、結局ごちゃごちゃ理屈を連ねたって、ただ先輩達を好きだという感情以上に明快な答えはない。


「……だから、今までの推論に何の意味もなかったっていうのは、なーんだってがっかりしたところもあったけど、正直ちょっとホッとした」

「……そっか」


 微妙に納得しきっていなさそうな返事だった。仕方がない、だって群青の内部の誰かが(レイブン・)(クロウ)の二人組に対して陽菜に声をかけるよう仕向けたこと、その事実はきっと間違いないのだから。


「……まあでも、あんまり先輩と二人きりになるなよ」

「そうだね。二人きりになるのは九十三先輩くらいにしとく」

「あの人はあの人でマジでどこまで本気なのか分かんねーのがな……」

「十割冗談じゃないのかな」

「……だと思うけど一割本能混ざってる気がする」


 本能……。でも桜井くんの前ではパンツの話をしないってことは私の前でするのはわざとなんだろうし……。いやそもそも本能でパンツの話をしていたとしても意味が分からないけど……。


「……でも意外と九十三先輩って二人のときだと悪ふざけしないんじゃないかな。体育祭の片づけのときとかそうだったけど、いつもどおり軽口は叩くけどそれだけっていうか……重いもの代わりに持ってくれたりするし……」

「……抱きしめられたのって一回目?」

「え、うん。それこそ悪ふざけの範疇(はんちゅう)だし、雲雀くんだって今日以外見たことないでしょ?」

「…………」


 返事はなかった。でも (悪ふざけとはいえ)抱きしめられたら忘れているはずがないから間違ってはいないはず……。何か変な返事をしただろうかと不安に駆られて眉を八の字にしてしまえば、雲雀くんは目を泳がせた。


「……他にないよな」

「……うん、ないはず……。……あ、そういえば」


 新庄に拉致された赤倉庫で蛍さんにバイクから降ろされるときに抱き上げられた──ということを口に出そうとして、雲雀くんがものすごい勢いでこっちを見たので一度黙った。


「……その、新庄に拉致された赤倉庫は……拉致という特殊事情があったからノーカンだよね……?」

「…………」


 雲雀くんはそのまま沈黙した。隣を走り去る車のエンジン音が気になるくらいには長く沈黙していた。


「……それって昴夜だっけ」


 しかも私の頭に浮かんだ光景と違ったせいで「え?」と首を傾げてしまった。でも確かに、言われてみれば蛍さんに抱き上げられた以外に桜井くんに抱きしめられてもいたんだった。……今考えると少し恥ずかしいけど、当時は何も感じなかったし、今だって抱きしめられた感覚も何も覚えていない。せいぜい言えるのは、男の子って力持ちなんだね、という程度だ。


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