ぼくらは群青を探している
(6)誤謬
その決意をした次の日、雲雀くんにも、当然先輩達にも黙ってこっそりと紅鳶神社へ向かうことにした。こっそりといっても、ただ群青メンバーに黙って行くだけで、行動自体は白昼堂々だ。
電車に揺られながら、そっと胸を押さえた。心臓は平常運転で、緊張している様子はない。黒烏に証拠をつきつけるためには、SDカードのデータが生きてるのが一番いい。でもさすがに桜井くんに壊されて雨ざらしにされていた以上、あれが残っている可能性はほぼ間違いなくゼロだ。残っているものとして考えられるのは、あのときに落としてしまった簪くらいだけれど、それは襲われたことを直接裏付けるものにはならない。となるとやっぱりできるのは……。
ゆるゆると頭を回転させる。他にできることといえば、例えば黒烏の本拠地に乗り込んで別の情報を掴むこととか。でもそもそも本拠地なんて知らないし、先輩達に聞いても教えてもらえるはずがない。
……群青は青海神社を根城 (能勢さんの言葉を借りれば部室)代わりにしているけれど、それと同じで紅鳶神社に居着いているチームもいるのだろうか。でも、もし紅鳶神社が特定のチームの根城なら先輩達が注意してくれてもいいはずだけれど、夏祭りのとき、蛍さんは暗いところがあるから注意しろくらいしか言っていなかった。それに、イメージだけど、もしどこかのチームの根城だとしたら、そこで群青と深緋が喧嘩をすることには問題もある気がする。よくある、ヤクザが自分の縄張りで好き勝手するなと宣う、あのケースだ。だとしたら紅鳶神社は安全で……、いやそもそも問題は黒烏の本拠地で……。
「英凜?」
考えながら電車を乗り換えようとしていたとき、桜井くんの声がした気がして驚いて振り向いた──ところに、やっぱり桜井くんがいた。聞き間違えるはずがない。少し厚手の半袖ティシャツに七分丈のパンツ、そしてサンダルといつもどおりの恰好で、片手に携帯電話だけ持って、きょとりと目を丸くしていた。
マズイ相手に見つかった。そう思った瞬間、肩にかけている大きなトートバッグをさっと背中に隠してしまい、しまったと唇を噛む。こんなの、見られてマズイものを見られたと言っているようなものだ。しかも、よりによって雲雀くんや蛍さんに告げ口しそうな桜井くんに見つかるのはマズイ。
「……なにしてるの?」
「なにって、電車乗るとこ」
辛うじて平静を装った声を出したけれど、桜井くんの声はどこか剣呑さを帯びていた。
「英凜こそどこ行くの? 侑生ン家じゃないじゃん」
私達が立っているのは南北線へと降りる階段の前だ。対して、雲雀くんの家があるのは東西線の白金駅。なんならおばあちゃんの家の最寄駅から雲雀くんの家に行くのに乗換なんて必要ない。
「えっと……」
しかも、私が今まさに降りようとしていたのは南北線でも南方面行きだけれど、ショッピングモールやらなにやらがあるのは北方面なので、普通に考えれば南方面に用事はない。なんなら、南のほうに繁華街も近くにあるからちょっと治安も悪い。
桜井くんの家も、中央駅から見て北だ。きっと家に帰るところなのだろう。
「……紅鳶神社?」
……桜井くんの、言動と一致しない勘の鋭さがこんなにも恨めしかったことはない。じろじろと私を、そして私の持つ荷物を見る目に企みを探られているような、そしてそれを見透かされているような気がして視線を泳がせた。
電車に揺られながら、そっと胸を押さえた。心臓は平常運転で、緊張している様子はない。黒烏に証拠をつきつけるためには、SDカードのデータが生きてるのが一番いい。でもさすがに桜井くんに壊されて雨ざらしにされていた以上、あれが残っている可能性はほぼ間違いなくゼロだ。残っているものとして考えられるのは、あのときに落としてしまった簪くらいだけれど、それは襲われたことを直接裏付けるものにはならない。となるとやっぱりできるのは……。
ゆるゆると頭を回転させる。他にできることといえば、例えば黒烏の本拠地に乗り込んで別の情報を掴むこととか。でもそもそも本拠地なんて知らないし、先輩達に聞いても教えてもらえるはずがない。
……群青は青海神社を根城 (能勢さんの言葉を借りれば部室)代わりにしているけれど、それと同じで紅鳶神社に居着いているチームもいるのだろうか。でも、もし紅鳶神社が特定のチームの根城なら先輩達が注意してくれてもいいはずだけれど、夏祭りのとき、蛍さんは暗いところがあるから注意しろくらいしか言っていなかった。それに、イメージだけど、もしどこかのチームの根城だとしたら、そこで群青と深緋が喧嘩をすることには問題もある気がする。よくある、ヤクザが自分の縄張りで好き勝手するなと宣う、あのケースだ。だとしたら紅鳶神社は安全で……、いやそもそも問題は黒烏の本拠地で……。
「英凜?」
考えながら電車を乗り換えようとしていたとき、桜井くんの声がした気がして驚いて振り向いた──ところに、やっぱり桜井くんがいた。聞き間違えるはずがない。少し厚手の半袖ティシャツに七分丈のパンツ、そしてサンダルといつもどおりの恰好で、片手に携帯電話だけ持って、きょとりと目を丸くしていた。
マズイ相手に見つかった。そう思った瞬間、肩にかけている大きなトートバッグをさっと背中に隠してしまい、しまったと唇を噛む。こんなの、見られてマズイものを見られたと言っているようなものだ。しかも、よりによって雲雀くんや蛍さんに告げ口しそうな桜井くんに見つかるのはマズイ。
「……なにしてるの?」
「なにって、電車乗るとこ」
辛うじて平静を装った声を出したけれど、桜井くんの声はどこか剣呑さを帯びていた。
「英凜こそどこ行くの? 侑生ン家じゃないじゃん」
私達が立っているのは南北線へと降りる階段の前だ。対して、雲雀くんの家があるのは東西線の白金駅。なんならおばあちゃんの家の最寄駅から雲雀くんの家に行くのに乗換なんて必要ない。
「えっと……」
しかも、私が今まさに降りようとしていたのは南北線でも南方面行きだけれど、ショッピングモールやらなにやらがあるのは北方面なので、普通に考えれば南方面に用事はない。なんなら、南のほうに繁華街も近くにあるからちょっと治安も悪い。
桜井くんの家も、中央駅から見て北だ。きっと家に帰るところなのだろう。
「……紅鳶神社?」
……桜井くんの、言動と一致しない勘の鋭さがこんなにも恨めしかったことはない。じろじろと私を、そして私の持つ荷物を見る目に企みを探られているような、そしてそれを見透かされているような気がして視線を泳がせた。