ぼくらは群青を探している
そこで、桜井くんを見上げなければならないことに気付いた。いや、今までだって見上げてはいたのだけれど、電車だと少し距離が近いぶん、首の角度が大きくなっていた。
「……背、また伸びた?」
「うん、いま一六九センチかな。一六八・八とかそんなだったけど、誤差だなって」
「そんな頻繁に測ってるの?」
〝伸びた気がする〟という返事ではなく、なんなら細かい数字まではっきり出てきたということはそういうことだ。桜井くんは「え、うん、ほらあの柱でせっせと」となんでもないように頷く。前は口先でしか身長を気にしていなかった気がするので、桜井くんの中でなにか意識が変わったのだろう。……なんの意識かは見当もつかないけど。
「てか、紅鳶神社でなにすんの?」
「……いや、その……」
桜井くんは、本当に何も察していないのだろうか。もし察していないなら、このまま逃げ切れるだろうか。
「……夏祭りの日、黒烏の二人組が私の写真を撮ったでしょ。あの写真のデータが入ったSDカードが残ってればいいなと思ったの」
「は?」
怒ったようには聞こえなかった。ただ、まるで有り得ない発想でも聞かされたかのような素っ頓狂な声で、視界の隅では座っている人が顔を上げた様子が目に入ったほどだった。
「何言ってんの?」
「残ってるわけないよね、分かってる。SDカードを壊してもらったことは分かってる、でもなにか黒烏との衝突を避ける方法が見つかればと思って……」
「俺、そういう話はしてないよ。それデータあったところでどうすんの?」
……どうやら、桜井くんは気付いていないらしい。半分嘘で半分本当の策に乗っかってくれたことに一瞬胸を撫で下ろしたものの「英凜がレイプされかけてる写真を黒烏にばら撒くの?」予想外の剣幕に怯んでしまった。
「別にばら撒くわけじゃ……」
「んじゃどうすんの? 見せて回んの? それ見せたところで何言われるか分かってんの? 自作自演だとか、よく見せろとかデータ寄越せって言われるだけだよ」
予想外どころか、桜井くんの言動として想定できないほど語気強く追い討ちをかけられる。