ぼくらは群青を探している

「……でも、黒烏が喧嘩を売ってきたのは私の一件のせいだし……」

「英凜のせいじゃないじゃん。永人さんもツクミン先輩も、英凜のせいなんて一言も言ってなくない? あのクールな(なぎさ)先輩だって筋通んないって言ってたんだよ」

「そうだけど……」

「てか、英凜は他人を頭良いと思いすぎ」


 首を傾げると、桜井くんは「いやマジで。英凜が考えてる前提っていつも相手の頭の良さに期待しすぎ」半笑い気味に肩を竦める。


「英凜は論理とか合理ってすぐに言うけど、この世のどんだけの人間がそれを理解できんの? そんで理解できたとこでそれに従うの? 例えばほら、みんな分かってるよ、不良なんてやってたって無駄だし、俺達が指さして笑ってる笹部みたいな陰気なガリ勉のほうが将来勝ち組なんだって。で? だからって俺達みんな髪バチッと黒くしてビン底眼鏡かけて一生懸命勉強する? しないじゃん?」

「それとこれと……」

「同じだよ。黒烏の連中だって分かってんだよ、なんもしないのに侑生にあそこまでされるはずない、やられた後に同じ場所で群青と深緋がやり合ってるなんておかしいって、ってことは黒烏の二人組が深緋と組んで英凜襲ったんだって。だから英凜のレイプ写真なんてでてきてらマジで動かぬ証拠、なんならガチ警察沙汰でオシマイだって。で? その論理に、俺達バカな不良がどんだけ納得すんの?」


 久しぶりに一対一で話す桜井くんは、どこかおかしかった。まるで私の知らない桜井くんみたいだった。饒舌(じょうぜつ)に常識的に論理を踏まえて分析して、それを流れる水のように(よど)みなく口走る。


「英凜は論理と合理しか信じないのかもしれないよ。でも普通そうじゃないよ。普通は声がでかいヤツが言ったことが真実だよ。論理と合理はどーでもいい、真実の裏付けなんて、声でかいヤツが言ってるから以上にないんだよ。だから黒烏では英凜が被害者ぶってんのが真実で、群青では英凜が被害者なのが真実」


 言葉を失ってしまいそうなほど、いや現に絶句してしまうほど、それはあまりにも適切な指摘だった。

 呆然としている私を見下ろしたまま、桜井くんはニッと口角を吊り上げた。


「なーんてね」

「……え」

「最近背伸びたから、売り方変えてみた。可愛い系からインテリ系にシフトしよっかなって」


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