ぼくらは群青を探している
 ドボンと間抜けな音と共に、雲雀くんが海の中へ消える。当然、すぐに銀色の頭が生えて「クッソ寒ぃ!」と悪態を吐いた。そのまま水浸しの銀髪をかき上げながら、顔に(したた)る海水を手のひらで乱暴に(ぬぐ)う。ティシャツはぴたりと体に張りつき、いつも見ている学ラン姿よりひとまわり細く見えた。入学式の日にやってきた怪物の手下が「細っこい」なんて馬鹿にしていたことをつい思い出した。


「バッカじゃねぇの、このクソ寒いのに海なんかに入れやがって!」


 普段のクールな姿からは想像もつかない、甲高い怒鳴り声だった。膝下は海に浸かったまま、雲雀くんは素早くティシャツを脱いで海水を絞り出す。ビチャビチャッと海面で水が跳ねた。


「でもなあ、最初に入れたのは侑生じゃん?」

「ボールを取りに行けって言ったんだよ俺は!」

「あれは侑生のボールが悪かったよな、舜がとれなかったもんな」

「取れないテメェが悪いんだろ!」


 ギャンギャンと言い争う三人が三人、五月初旬に全員水浸しで凍えている。

 大体、波打ち際でビーチバレーをすること自体、変なのだ。普通に考えれば、弾かれたボールが海に落ちることなんて簡単に予想がつくのに、わざわざ波打ち際の真横でビーチバレーをすることが変だった。それどころか、もとをただせば、ゴールデンウィークなんかに海に行こうと言い出して、挙句真夏の風物詩みたいな遊びを始めようとするなんて、普通はない。


「……ふふっ」


 それは、あまりにも私の考える〝普通〟から離れていて、思わず笑い出してしまった。


「あははッ!」


 言い争う三人に聞こえるくらい、大きな声が出てしまった。なんなら笑い過ぎて涙が出た。お陰で三人がこちらを見ていると気付くまで暫くかかった。


「あ……ごめん、つい……」

「いやー、許しがたいね」


 桜井くんの声にドキリと心臓が揺れた。ザブザブとその足が波を踏む音を聞きながら、ぎゅっと体の前で手を握りしめる。

 ぺちゃんこになってもなお陽光に反射する金髪の下で、桜井くんはにんまりと口角を吊り上げた。きっといたずらっぽい笑みというのは、こういう笑みをいうのだろう。心臓がさっきとは違う意味で揺れた。


「三国も海に突っ込もうぜ」

「えっ」

「な!」


 冷たい海水に濡れた手に腕を掴まれ、波打ち際まで連れていかれる。海水に濡れ、冷え切った砂の温度が足の裏から上ってきたかと思えば、すぐに海の中まで連れていかれた。波は既に膝下だったけれど、凍えるほど冷たくはなく、むしろちょっとひんやりとして気持ちが良い。

< 48 / 89 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop