ぼくらは群青を探している
「虐められてるヤツを助けろなんて言うつもりはねーよ、助けりゃ自分が虐められることなんて分かってる。だから空気読んで無視したって、だからお前も同罪だとまでは言わねーよ、俺は。ただな、そこで空気読めなくたって間違ってねーだろ。……そんでお前が虐められ始めたら、それはお前が貧乏クジ引いたって意味になる。そんだけだろ」
私は、人生の選択を、間違えている。いつでも。
「つかお前のことおかしいと思ったことねーよ。いやラブホの意味知らねーのおかしいけど。なんだこのクソ後輩は空気読めねえのかとは思わねーよ」
「……みんなの前でなんで雲雀くんは牧落さんのこと嫌いなのとか言っちゃうし」
「別にいいだろ、みんな察してたし。……つかお前、それこそ新庄とか見てみろ。アイツは、お前襲ったりお前使って雲雀に嫌がらせするくらいには、悲しいだのトラウマになるだの、そういう他人の感情をよく分かってんだよ、どうやったらブチ切れるかどうやったらダメージ食らうか、考えなくたってアイツは分かってる。……で?」
それが何か偉いのか? そう言いたげに、蛍さんは声を荒げながら口を歪めた。
「確かにお前はクッソ鈍い、どうせ雲雀だって告られるまで気付かなかったんだろ。んで、新庄はそんなお前なんかよりよっぽど他人の感情に敏感でよく分かってる、五月の時点でお前を拉致れば桜井と雲雀が助けに来るって確信するくらいにはな。でも誰がどう見たってお前はまともで新庄は頭おかしいだろ」
私はまともで、新庄はおかしい。私は他人の感情が分からなくて、新庄は他人の感情が分かるのに、おかしいのは私じゃなくて、新庄。
「うちの妹虐めてた連中だってそうだ、アイツらン中に他人の感情分かんねぇとかほざくサイコはいない。ただ自分のことじゃねーならどうでもいいっつうクソ野郎がいるだけだ。そういうヤツらのほうがよっぽど頭がおかしい。他人の感情分かりゃいいってもんじゃない、これがお前がいつも喚いてる論理と合理ってやつだろ」
「……それは分からないことに対する擁護にはならないので非論理的です」
「うるせえ! ぶん殴られたいのかテメェは!!」
言いながらその手がヘルメットを叩いている。あれが私の頭だったらと思うと恐ろしい。
「今日だってな──いや反省しろよ、お前がやったことはマジで反省しろ。お前が群青のためにやろうとしたことだけは褒めてやる、ただしちゃんと反省はしろよ!」
ほんの細やかな飴のせいで同じことをされては堪らない、そう言いたげに怒鳴りながら、蛍さんはバイクを降り、面食らっている私の頭に「イタッ!」乱暴に拳を乗せた。
「まずは反省しろ。二回も新庄に襲われたくせに、しかも襲われた場所に行って写真を撮るだ? テメェの脳みそは腐ってんのか。勉強しかできねーのかこの優等生ちゃんの頭はよぉ!」
「痛い痛い痛い! 蛍さん本当に痛いです!」
しかもそのまま脳天をぐりぐりと拳に掘られた。関節部分がしっかりと押し当てられて冗談じゃなく本当に痛い。痛みを紛らわせるために、腕の中のトートバッグをぎゅっと抱きしめる羽目になった。
「ち、違うんです、確かに不適切かなとも考えたんです、でも、まず黒烏と衝突するとマズイなって」
「だからどーでもいいつってんだろ! 勝手に騒いで勝手に被害者面したヤツのためになんでこっちがコソコソする必要がある?」
「でも──」
「でもでもうるせぇつってんだろ!」
「痛い!」
私は、人生の選択を、間違えている。いつでも。
「つかお前のことおかしいと思ったことねーよ。いやラブホの意味知らねーのおかしいけど。なんだこのクソ後輩は空気読めねえのかとは思わねーよ」
「……みんなの前でなんで雲雀くんは牧落さんのこと嫌いなのとか言っちゃうし」
「別にいいだろ、みんな察してたし。……つかお前、それこそ新庄とか見てみろ。アイツは、お前襲ったりお前使って雲雀に嫌がらせするくらいには、悲しいだのトラウマになるだの、そういう他人の感情をよく分かってんだよ、どうやったらブチ切れるかどうやったらダメージ食らうか、考えなくたってアイツは分かってる。……で?」
それが何か偉いのか? そう言いたげに、蛍さんは声を荒げながら口を歪めた。
「確かにお前はクッソ鈍い、どうせ雲雀だって告られるまで気付かなかったんだろ。んで、新庄はそんなお前なんかよりよっぽど他人の感情に敏感でよく分かってる、五月の時点でお前を拉致れば桜井と雲雀が助けに来るって確信するくらいにはな。でも誰がどう見たってお前はまともで新庄は頭おかしいだろ」
私はまともで、新庄はおかしい。私は他人の感情が分からなくて、新庄は他人の感情が分かるのに、おかしいのは私じゃなくて、新庄。
「うちの妹虐めてた連中だってそうだ、アイツらン中に他人の感情分かんねぇとかほざくサイコはいない。ただ自分のことじゃねーならどうでもいいっつうクソ野郎がいるだけだ。そういうヤツらのほうがよっぽど頭がおかしい。他人の感情分かりゃいいってもんじゃない、これがお前がいつも喚いてる論理と合理ってやつだろ」
「……それは分からないことに対する擁護にはならないので非論理的です」
「うるせえ! ぶん殴られたいのかテメェは!!」
言いながらその手がヘルメットを叩いている。あれが私の頭だったらと思うと恐ろしい。
「今日だってな──いや反省しろよ、お前がやったことはマジで反省しろ。お前が群青のためにやろうとしたことだけは褒めてやる、ただしちゃんと反省はしろよ!」
ほんの細やかな飴のせいで同じことをされては堪らない、そう言いたげに怒鳴りながら、蛍さんはバイクを降り、面食らっている私の頭に「イタッ!」乱暴に拳を乗せた。
「まずは反省しろ。二回も新庄に襲われたくせに、しかも襲われた場所に行って写真を撮るだ? テメェの脳みそは腐ってんのか。勉強しかできねーのかこの優等生ちゃんの頭はよぉ!」
「痛い痛い痛い! 蛍さん本当に痛いです!」
しかもそのまま脳天をぐりぐりと拳に掘られた。関節部分がしっかりと押し当てられて冗談じゃなく本当に痛い。痛みを紛らわせるために、腕の中のトートバッグをぎゅっと抱きしめる羽目になった。
「ち、違うんです、確かに不適切かなとも考えたんです、でも、まず黒烏と衝突するとマズイなって」
「だからどーでもいいつってんだろ! 勝手に騒いで勝手に被害者面したヤツのためになんでこっちがコソコソする必要がある?」
「でも──」
「でもでもうるせぇつってんだろ!」
「痛い!」