ぼくらは群青を探している
ぐっとダメ押しのように頭を拳で押さえつけられた。桜井くんや九十三先輩達はいつもこんな暴力を受けていたのか……! 九十三先輩が地面に転がるのはただのリアクションではなかったのかもしれない。
「黒烏は俺達がぶち殺す。お前は二度と証拠を作るな、持ってるなら捨てろ。俺達に許可なく勝手な行動すんじゃねえ!」
挙句の果てに怒鳴り散らされ、完全に私は硬直していた。学校の先生にさえ怒られたことがない、しかも父親も教育に関して放任主義だった、そのせいで、男の人に怒鳴られるなんて物心ついてから初めての経験に等しい。雲雀くんにも桜井くんにも怒られたことはあるけど、あの二人とはまた怒り方が違う。なにせ蛍さんは手を出す上に怒鳴る。
「大体お前雲雀と付き合ってんだろ! 雲雀と付き合ってんのに桜井連れて行ってんじゃねーよ、隙だらけなんだよ! 雲雀と桜井が喧嘩したらどう責任取んだお前は!」
「す、すみませ、」
「俺が泣かせたみたいだろ泣くな!」
目が潤んだら余計に怒られた……。というか悪いのは私だけど泣かせたのは蛍さんじゃ……と思ったけどこの剣幕を前にしてそんなことは口に出せなかった。
ただ、さすがの蛍さんもそれで一度口を閉じた。泣かせたは泣かせたで事実だとでも思っているのだとしたらなんだか申し訳ない。でも泣いてしまうのは本能的な問題なので許してほしい。
「……あのな、群青のためにやろうとしたってのがあるからそこまで怒りやしねーけどな。お前がやろうとしたことは褒められたもんじゃない、普通に反省しろ」
「……すみません……」
いや……充分怒られているのだけれど……蛍さんはこれでも半分も怒っていないつもりなのだろうか……? 肝心の蛍さんの様子を窺おうにも「……怒ったせいで何の話しようと思ったのか忘れたじゃねーか」なんて首を捻っている。勝手に怒って勝手に忘れるなんてそんな勝手な……と思うものの怒らせたのは私だ。こんなことを言っているとまた反省しろと言われてしまう。
「まあいい、お前は自分がおかしいだの病気だの言う暇あったら雲雀に色々習っ──そうだ思い出した」
また怒られるのかと思って身構えた。しかも引っ込んでいた手がまた伸びてくるから、頭を叩かれるのかと思って首を竦ませた──けれど、予想に反して、頭にはポンポンと手のひらが載せられた。
「拾ってくれてやってありがとな。アイツ多分礼も何も言ってねーから言っとく」
……こんな飴と鞭は、上手すぎる。
「……だから泣くなつってんだろ!」
「……これは……蛍さんが泣かせたわけで……」
ノートを拾った、たったそれだけのことに何の意味がある? それはただ、いつもどおり私が何も察することができなかったことの裏付けだ。
でも、もしかしたら、あの日は人生を間違っていなかったのかもしれない。
「……大体、付き合ってる男がいるのに他の男の前でビービー泣いてんじゃねーよ。そういうことするから桜井がつけこもうとすんだろ。アイツも悪いけどな、男の前で泣くお前も悪──」
蛍さんが言葉を切ると同時に、ガチャン、ガチャンと音がした。自転車を止める音だった。
何事……と涙を拭っていた顔を上げると…………、お巡りさんがいた。夕暮れに照らされる顔はおそらく三十代くらいで、自転車を降りるとスルッと私と蛍さんの間に割り込む。
「ちょっといいかな。女の子が暴走族に脅迫されてるって通報があったんだけど」
「黒烏は俺達がぶち殺す。お前は二度と証拠を作るな、持ってるなら捨てろ。俺達に許可なく勝手な行動すんじゃねえ!」
挙句の果てに怒鳴り散らされ、完全に私は硬直していた。学校の先生にさえ怒られたことがない、しかも父親も教育に関して放任主義だった、そのせいで、男の人に怒鳴られるなんて物心ついてから初めての経験に等しい。雲雀くんにも桜井くんにも怒られたことはあるけど、あの二人とはまた怒り方が違う。なにせ蛍さんは手を出す上に怒鳴る。
「大体お前雲雀と付き合ってんだろ! 雲雀と付き合ってんのに桜井連れて行ってんじゃねーよ、隙だらけなんだよ! 雲雀と桜井が喧嘩したらどう責任取んだお前は!」
「す、すみませ、」
「俺が泣かせたみたいだろ泣くな!」
目が潤んだら余計に怒られた……。というか悪いのは私だけど泣かせたのは蛍さんじゃ……と思ったけどこの剣幕を前にしてそんなことは口に出せなかった。
ただ、さすがの蛍さんもそれで一度口を閉じた。泣かせたは泣かせたで事実だとでも思っているのだとしたらなんだか申し訳ない。でも泣いてしまうのは本能的な問題なので許してほしい。
「……あのな、群青のためにやろうとしたってのがあるからそこまで怒りやしねーけどな。お前がやろうとしたことは褒められたもんじゃない、普通に反省しろ」
「……すみません……」
いや……充分怒られているのだけれど……蛍さんはこれでも半分も怒っていないつもりなのだろうか……? 肝心の蛍さんの様子を窺おうにも「……怒ったせいで何の話しようと思ったのか忘れたじゃねーか」なんて首を捻っている。勝手に怒って勝手に忘れるなんてそんな勝手な……と思うものの怒らせたのは私だ。こんなことを言っているとまた反省しろと言われてしまう。
「まあいい、お前は自分がおかしいだの病気だの言う暇あったら雲雀に色々習っ──そうだ思い出した」
また怒られるのかと思って身構えた。しかも引っ込んでいた手がまた伸びてくるから、頭を叩かれるのかと思って首を竦ませた──けれど、予想に反して、頭にはポンポンと手のひらが載せられた。
「拾ってくれてやってありがとな。アイツ多分礼も何も言ってねーから言っとく」
……こんな飴と鞭は、上手すぎる。
「……だから泣くなつってんだろ!」
「……これは……蛍さんが泣かせたわけで……」
ノートを拾った、たったそれだけのことに何の意味がある? それはただ、いつもどおり私が何も察することができなかったことの裏付けだ。
でも、もしかしたら、あの日は人生を間違っていなかったのかもしれない。
「……大体、付き合ってる男がいるのに他の男の前でビービー泣いてんじゃねーよ。そういうことするから桜井がつけこもうとすんだろ。アイツも悪いけどな、男の前で泣くお前も悪──」
蛍さんが言葉を切ると同時に、ガチャン、ガチャンと音がした。自転車を止める音だった。
何事……と涙を拭っていた顔を上げると…………、お巡りさんがいた。夕暮れに照らされる顔はおそらく三十代くらいで、自転車を降りるとスルッと私と蛍さんの間に割り込む。
「ちょっといいかな。女の子が暴走族に脅迫されてるって通報があったんだけど」