ぼくらは群青を探している
 暴走族……脅迫……通報……! そのワードが羅列された瞬間、この状況を理解した。確かに、バイクで派手に乗りつけて怒鳴り散らかして、しかも私が泣いていれば、通報もされる。夕方だし家の前だし、こんなところで脅迫も何もないのでは、というのはさておき。

 しかも蛍さんの態度は悪かった。私は生まれて初めて外でお巡りさんに話しかけられて緊張しているというのに、蛍さんは「してねーよ!」なんて不遜な態度で、私に説教するのと大差ない。


「そうかなあ。……ああ、君、灰桜高校の蛍くんか」

「そうだよ文句あっか」

「ちょ、ちょっと、ちゃんと敬語……」

「お前が説教させるからこんなことになってんだろ! 反省しろ!」


 そこまで含めて私のせい……? いや私のせいなのか……そうなのかも……?

 蛍さんは過去に補導されたことでもあるのか、はたまた灰桜高校の不良といえば警察の厄介になっているのが常なのか、お巡りさんは「はいはい、怒鳴らない怒鳴らない」と蛍さんの慣れ慣れしい態度にも、それこそ慣れっこな様子だ。


「それで、結局どうしたの。蛍くん、彼女と喧嘩でもしたの」

「ちげーよ! うちの後輩だよ。あんまりにもバカだから説教してたんだよ」

「でもほら、泣いてるでしょ?」

「だから泣くなつったんだよ! 俺が泣かせたみたいに見えんだろ!」

「それはそうじゃないですか……」

「お前が勝手に泣いたんだろ! つか泣きやめ!」

「……涙は生理現象に等しいので」

「うるせえ!」

「だめだよー、女の子怒鳴っちゃ。君も、本当に蛍くんの後輩? 脅迫で言わされてない?」

「ほ、本当に後輩です、大丈夫です」


 信じてもらうためにガシッと蛍さんの腕と掴んだ。蛍さんはものすごく怪訝そうというかイヤそうな顔をして見下ろしてきたけれど、お巡りさんに見られているという状況をもっと真剣に考えてほしい。


「あ、そう」


 勘違いによる通報だと分かってくれたのか、「はーあ」とお巡りさんは帽子の向きを整えながら心底煩わしそうな溜息を吐いて「なんにもないのはいいけど、あんまり道端で女の子を泣かせないようにね。通報されても仕方ないよ?」あっさりと自転車で走り去った。やっぱりお巡りさんにとって蛍さん達が騒ぎを起こすのは日常茶飯事なんだろうな……。

 そっと蛍さんの腕を解放しながら「……蛍さんが怒鳴るから……」と文句を言うともう一度拳が降ってきた。殴られたというほどじゃないけれど、振り下ろされた後はお仕置きのように拳で脳天を押さえつけられた。


「いいか。反省しろよ」

「……すみません」

「二度と俺を怒らせんな。いいか」

「……すみません」


 蛍さんは「なんで俺は悪くないのに怒られんだよまったく」とぶつくさ文句を言いながらバイクに乗った。また通報されては堪らないと思っているのだろう。


「じゃあな三国。お前本当に次同じことしたらぶん殴るからな」

「……すみません」


 そしてまたとんでもないエンジン音をさせて走り去っていった。送っておいてもらってなんだけど、確かにあれを見ると暴走族に襲われてたような気がしてくる。雲雀くんと桜井くんがうちに来るときに「暴走族に襲われてるって勘違いされそうだから」と仲良く歩いてくるのはあながち間違っていないどころか全面的に正しかったらしい。時間と態度もあるだろうけど、確かに通報する人はいるようだ。

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