ぼくらは群青を探している

(7)見落

 水曜日、桜井くんと雲雀くんの誕生日だということで、桜井くんの家で二人のお誕生日会をする──ために、ひたすら餃子を作ることになった。

 学校帰りに私と雲雀くんで買い出しを済ませ、桜井くんの家に行き、二人が餃子のタネを作り、居間のテーブルにどんとボウルと皮とお皿とを置いて、餃子作りに取り掛かる。そんなことをしながら月曜日にあった一連の出来事を報告すると、雲雀くんは「ふーん、妹か」と頷いた。


「姉貴が死んでるだのなんだのって話があったけど、あれ結局妹だったんだな」

「うん、いや死んでないんだけど。妹がいるんだって話は能勢さんから聞いてたけど……、本当に全然似てないし、気付かないよね」

「そりゃ苗字違えばな」

「てか結局永人さんも妹溺愛してんじゃんね。兄貴ってみんなそうなの?」

「知らね」

「溺愛っっていうか……なんやかんや大事って感じじゃない? 中学になってから会話もしてないみたいな話してたし……」

「てか先輩らみんなそんな感じだよな。妹欲しかったとか妹いたら絶対溺愛してたみたいな話、時々してる。ツクミン先輩とか、もう一人頑張ってほしかったってよく言ってるし、だから英凜のこと好きなのかな?」

「妹を溺愛するお兄ちゃんなんてフィクションにしかないんだと思ってた」

「英凜と兄貴ってどうなの?」

「……別に仲悪くはないけど。おかずとか果物とか、よく盗られてたし、プロレス技かけられた記憶もあるし……。あのお兄ちゃんに実は溺愛されてなんて聞いたら寒気がする」

「喧嘩の内容つか扱いが完全に男兄弟のそれだな」

「侑生は? 妹の飯盗んの?」

「盗らねーよ」

「雲雀くんは分けてあげそう」

「やっぱシスコンじゃん、キモチワルッ」

「お前それ言いたかっただけだろ」


 ピンポーン、と玄関チャイムが鳴って、桜井くんが顔を上げた。私と雲雀くんも顔を上げつつ、でも手元で餃子の皮にタネを包むのは止めない。


「牧落か?」

「ううん、アイツならチャイムの次に声かける」

「こーやー」

「舜だ」


 声は聞こえたけど、荒神くんのものだった。桜井くんが「開いてるー!」と声を張り上げれば、ガラガラと引き戸の開く音がし、ドタドタと足音が聞こえ、すぐに(ふすま)が開いた。学校から直接来たにしては少し遅いけど、制服姿でカバンも持っていた。
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