ぼくらは群青を探している

「……そういえば、雲雀くんってたまにご飯作るって言ってたね」

「作るけど、基本あんまり。つか飯作るのは三国も作んだろ」

「細かい作業はしないから。切って炒めるか煮込むかくらいならいいけど」

「あーね、英凜のご飯は家庭の味って感じ。三国家の食卓、みたいな」

「なに三国の手料理知ってますアピールしてんだよ、三国の彼氏は侑生だろ」


 ジュー……と餃子の焼ける音が響いた。私は黙ってお皿を洗っていたけれど、きっと雲雀くんは睨んだのだろう、背後では荒神くんが「ごめんごめん、てかそんくらいいじってよくない?」と弁解していた。


「てかお前ら、せっかく群青入ったのに永人さん達と飯食わねーの?」


 そしてまた荒神くんは (地雷とはいわずとも)微妙な話をつついてきた。私達三人は再び揃って口を閉ざし、台所には、ジュー……と餃子が焼ける音だけが再び響き渡る。荒神くんはいつもの緩い顔つきのまま固まった。


「……俺なんかマズイこと言った?」


 さすが荒神くん、やっぱりこういう空気を察することができるんだな……なんて感動している場合ではない。雲雀くんはきっと「しょせん話を聞いただけだから」と黙っているのだろうけれど、蛍さんから直接話を聞いた桜井くんと私はそうはいかない。

 ただいきなりこの場で切り出すのも……いやでも雲雀くんには話してしまったわけだし……と桜井くんの顔を見ていると、桜井くんは「俺が言うの?」とでも言いたげに眉を吊り上げた後で、首を傾けて少し考え込むような仕草をし、腕を組んだ。


「……舜、永人さんの妹虐めてたってマジ?」


 そして荒神くんの顔は今度こそ凍り付いた。さすがの私もそのくらいの変化を読み取ることはできた。

 ジュー……と餃子の焼ける音だけが変わらずに響く。沈黙が落ちる中、荒神くんは視線を泳がせながら「えーっと……まあ……その……」と意味のない言葉で時間を稼ぐ。


「……そういうことに……なる……」

「お前ダッセェな」

「いや、待って、いやえっと、うーんと……。……いやなんも言い返せないんだけど」


 雲雀くんの冷ややかな一言が胸に刺さったのか、荒神くんは額を押さえた。指の隙間から見える目には、見ているこちらが怖くなってしまうほどの真剣さというか、真面目さが浮かんでいる。もしかしたらそれは後悔とか懺悔(ざんげ)と形容していい感情かもしれないけれど、私と荒神くん程度の関係ではそこまでは分からなかった。


「……一年のとき同じクラスで……俺も調子乗ってたっていうか……。見て見ぬふりしたってよりは……一緒になって、キッショイとか、言ってました。すみません」

「……別に私達に謝られても」

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