ぼくらは群青を探している
「まあ本当に仲良かったら不登校になる前に殴り込みに行ってんだろ」

「侑生やりそう。てかやめとけよォ、舜、女子虐めるとかさ」

「だから反省してるって……」

「お前が女子至上主義なのって何、教訓か反省かなにか?」

「いやそういうわけじゃないけど、別に俺普通に可愛い女子好きだし……。あーでもなんか虐め見ると心がザワザワする。なんかあの頃のダサイ自分思い出してザワザワジメジメする、なんかすっげー目逸らしたくなる」

「ダサイって自覚あったんだ……」


 ボソッと桜井くんが呟けば「いやなかったよ正直!」と荒神くんは恥ずかしそうに、そしてやるせなさそうに、それこそ正直に白状した。


「でも永人さんにぶん殴られて目覚めたっていうか、なんか虐め見かけたら『あれ、俺もああいう感じだった? イケてなくない?』みたいに思い始めたっていうか……」

「まあ中一のときのお前はなんか媚び媚びしててキモかった、保証する」

「だからあ、あの頃はさ、中学入ったばっかで、ノリとかそういうもんが一番大事だったわけ。仕方ないじゃん、のんなきゃ『つまんねー』とか『面白くねー』とか言われて学校生活オシマイじゃん」

「うるせえ黙れでよくね」

「侑生はそういうこと言える性格だからいいじゃん、お前を虐めるヤツなんていないし。でもみんながみんなそうじゃないんだよ、ちゃんと一緒に笑ってないと虐められるのは自分なんだって」

「てかそれで舜も虐められたんだっけ? 自業自得ってやつだな」

「マッジで、笑いごとじゃないから、永人さんに助けてもらわなかったら親の財布から盗ってたから」

「殴ればいいんだよそんなヤツは」

「だからみんながお前みたいなヤツじゃないんだよ」


 空気を読むのが上手な荒神くんも、存外試行錯誤してるんだな……。洗ったお皿を拭きながら、ついその横顔を見てしまった。荒神くんは雲雀くんに白い目を向けられながら「てか永人さんに助けてもらえなかったら今でも媚び媚びだったかもしれない。やっぱ永人さん恰好良いなって」と真面目に腕を組んで頷いていた。

 そんな話をしているうちに餃子が出来上がり「ほーい、第一弾!」と桜井くんが蓋を開け、私と荒神くんは「おお……」「うまそう!」と声を揃えてフライパンを覗き込んだ。ジュウジュウと音を立てているそれを桜井くんは大きめのお皿に移し「んじゃ第二弾セットして食お」そのまま私に手渡す。受け取って居間へ運ぶ私の後ろでは「舜、皿」「え、なんの」「スープだよ見て分かれ」卵スープの準備も進み、あっという間に居間のこたつ机の上に晩ご飯が揃った。焼き立てのうちにと箸を伸ばそうとすると「待って三国、写真撮るから!」と荒神くんに止められた。荒神くんは携帯電話を横向きにしてカシャッと餃子へ向けて音を立てる。


「これでよーし」

「写真撮ってどうするの?」

「え? どう? ……どう? どうって何、三国?」

「三国、お酢」

「ありがとう」

「いや聞けよ話を」


 豆皿でお醤油とお酢を混ぜ、餃子を浸して頬張った。熱々なので味わうには少し時間がかかったけれど、皮はパリッとしていて中はジューシーというヤツだ。


「……おいしい」

「ンま! 上手に焼けました!」

「これ具出てんだけど。三国だろ」

「……ううん、それは荒神くん」

「ごめんって──じゃなくてなんで? 話戻って? 写真撮るのに理由なんている?」

「ああ、味はおいしい」

「だから聞けよ話を!」


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