ぼくらは群青を探している
 桜井くんと雲雀くんは揃って顔をしかめた。きっと「うるせー」とでも思っているのだろう。雲雀くんはともかくとして、桜井くんまでこんな温度感なのは珍しいけれど、きっと写真というものについては、桜井くんの心が少年すぎて興味の対象外なのだろう。


「……面倒臭くない?」

「ほーら三国はそういうとこ、顔が可愛いのにそういうところがダメ」荒神くんは大袈裟に肩を竦めた後でハッとした顔になり「もしかして侑生とツーショットない? え、マジ?」


 私と雲雀くんが無言なのが答えだった。というかお試しで付き合いながらそんな写真があるわけないのだけれど、さすがに荒神くんはそんなことは知らない。私と雲雀くんを見比べて「マジ! いやあ、そこは三国が分かってあげないと」となぜか私の肩に手を置いた。


「侑生、むっつりだから。三国とツーショット撮って待ち受けにしたいって思ってるから。ちゃんと撮ってやりなよ」

「……それはむっつりとかじゃなくて照れ屋じゃないの」

「そうともいう。でもむっつりはむっつり。なー、昴夜」

「それはそう。マジで侑生に手出されたら永人さんにチクるって言っといたほうがいい、じゃないと侑生手出すから」

「あー、なんか群青で血判状作らされたんだっけ?」

「手出していいのAAAまでなんだって」

「なんだよAAAって、手繋ぐとか?」

「いや頭撫でる」

「なんかそれ見たら逆にムカつきそう」


 桜井くんと荒神くんが私達そっちのけで盛り上がっている隙に、雲雀くんが荒神くんの豆皿にラー油をドボドボと注いだ。当然荒神くんは気付かずに「てか、三国ってマジで永人さんのお気に入りじゃん? よく付き合って無事でいるよな──辛ッ」痛みに悶絶する。


「どうでもいいんだけど、お前結局蛍さんにどんだけチクッてんだ?」


 でも当然、雲雀くんはどこ吹く風だ。そして雲雀くんの質問の重要度は私にとっても結構高かったので早く喋って欲しかったのだけれど、「待って待って待って、死ぬ死ぬ、辛くて死ぬ」ラー油攻撃によって荒神くんの口は戦闘不能になってしまい、しばらくひたすら白米を口に入れるだけとなっていた。その間に餃子第二弾も焼けた。


「あーっと……永人さんにチクッてたことね……いやチクッたなんて言われることじゃないと思うんだけどさあ……」


 荒神くんは唇をタオルで押さえながら、痛みを堪えるように眉間に皺を寄せて「多分……三国のこと初めて聞かれたのは中二のときかなあ……」と白状した。


「カツアゲ助けてもらって、俺は永人さんだって――豊池のあの兄貴だってすぐ分かったんだよね。んで永人さんは気付かなかったから、あの時家に行った荒神ですみたいに話して、あーお前かって言われて」

「ついでに私のことを聞かれたってこと?」

「そう。そういやお前三国って知ってるか、みたいな。中二のとき同じクラスだったじゃん? だから普通に同じクラスで可愛いですよみたいなこと話した。でも不良とか関わりないからやめたほうが良くないですかとか」

「お前にしては至極まともなチクリだな」

「だからチクったって言い方やめろよ」

「私の体が弱いって話は?」


 正直、何を話されていたってどうでもいい。問題はそこだ。

 私達と荒神くんとではその情報の重みの種類は違う。ただ、二人が話していたとおり、荒神くんはその情報を重いと考えているらしく、気まずそうに視線を泳がせた。


「え? あー……あ……言ったかも」

「…………」

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