ぼくらは群青を探している
「いやごめん、これはなんか言いふらすとかじゃなくて、だから余計に関わんないほうがいいですよみたいな!」


 言い訳がましいのを自覚しているかのようにバタバタと手を振られたって、別に、私はセンシティブな情報を言い触らされたことを問題視しているわけではない。その意味では荒神くんが謝らなければならないことはないのだけれど、その情報に振り回されたのは事実なので黙っておいた。


「……その話、蛍さんだけにしたの? 蛍さん以外が知ってる可能性もある?」

「えー、いや、どうだろ……。三国のこと聞いてきたのは蛍さんだったけどさ、その時にあの――九十三先輩もいたし。顔は覚えてないけど、体弱くて田舎来てる女の子に構うのはやめとけみたいなこと言ってる人もいたし。みんな知ってんじゃないかな……」

「…………」


 脱力、とはこういうことをいうのだろうか。その情報を知ってさえいれば、私達が先輩を疑う必要なんてなかったのに。

 はーあ、と揃って大きな溜息を吐いた私達に、荒神くんは目を白黒させながら「え、なになに、そんながっかり? 俺ダメ?」と斜め上の心配をする。


「……ちなみに、新庄の話は? 蛍さんにしたの?」

「したに決まってるだろ! これは俺悪いと思ってないからな、蛍さんは三国を心配してたわけだし、三国は新庄に襲われてたわけだし……」

「……別にいいんだけど、なんでそれを早く言ってくれなかったのかなって」

「言えるわけないだろ、中一のときにダッサイ虐めに便乗してて、それやめたらカツアゲされで、そんでそれを助けてくれたのがダッサイ虐めの相手の兄貴で、今やその兄貴の言いなりなんてさ」


 ザワザワ、ジメジメ……さっきの荒神くんの擬態語を頭の中で反芻する。荒神くんの感情は、その擬態語だけでは明確に掴めなかった。でも虐めを見るたびにそう感じるということは、そのくらい当時の行為に対して罪悪感に近い感情に(さいな)まれているということ……。……無暗に自分の恥ずかしい過去を口にしたくないのは、ごく自然な発想か……。


「お前はどうでもいいけど、蛍さん、よくお前のことパシリで許してんな。俺だったら自分の妹虐めてた後輩なんて、とりあえず土下座させて口の中に画鋲突っ込んでそのまま頭踏んでから何させるか考える」

「……こんなこと言っちゃいけないのは分かるけど、豊池の兄貴が永人さんでよかった。マジで」

「でも本当、なんでそれで許されてんの? 永人さんに絶対服従っていってもさ、別に財布になってるわけでもないんじゃん?」

「俺に聞かれても」

「……考えてみれば子供の経済力なんていずれ枯渇(こかつ)するんだから、そんな圧政を強いるよりも恩を売って自ら従順にさせたほうが使い勝手はいいのかもね」

「……なに? 三国いまなんて言った……? なんか怖いこと言わなかった……?」

「話は戻るんだけど、新庄の話って何をどこまでしたの?」


 荒神くんは新しい餃子のタレに餃子を浸しながら「えーっと何をどこまでっていうと……」と言い(よど)む。きっと雲雀くんと桜井くんがいるから、二人の手前どこまでどう話していいか悩んでいるのだろう。


「大丈夫、雲雀くん達にも全部話してあるから」

「……昴夜も聞いてんの」


 雲雀くんの目が少し訝しげに細められた。月曜日の一連の報告、といっても大まかな話しかしていないし、なんなら主眼が蛍さんの話だったせいで、桜井くんに問い詰められたことは省いていた。


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