ぼくらは群青を探している
 相変わらず不機嫌そうというか、不機嫌なりに平静を装おうとしているというか、そんな調子だった。お陰で内心はほんの少しヒヤヒヤしてしまう。


「中学は別々だったし……。なんでまた話すようになったんだっけ、思い出せないけど」

「お前が灰桜高校(はいこう)行くってなったからじゃねーの。腐れ縁が復活するってなったとか」


 雲雀くんが桜井くんに対して普通に返事をするということは、二人の間で空気が悪いわけではない……と……? ……となると犯人は私か荒神くんなのだけれど、新庄の件を黙っていたことの何がそんなに悪いのか、さっぱり見当もつかない。月曜日にあんなに怒ってたということは私が悪いんだろうけど、そのメカニズムというか理屈がどうにも……。


「でもそんなの言い出したのって結構後じゃん? 去年の誕生日はウチ来てたから、多分それより前からウチ来始めてたと思うんだけど……」

「お前に彼女いたから遠慮してたんじゃねーの」


 ……! 空気だのなんだのなんてものは頭から吹っ飛び、その衝撃のワードに目を見張った。そうだ、そういえば桜井くんにはそんなものがいたのだ。そして中学三年生の九月には胡桃が再び遊びに来るようになっていたということは、少なくともその頃には別れていた……。


「えー、アイツってそういうタイプじゃなくない? 俺のことなんとも思ってないからノーカンって感じで来そう」

「でも胡桃みたいな美少女が近くにいたら彼女っていう立場だと少なからず不安になるものなんじゃないかな。胡桃は気遣いが上手な子だし、きっとそういうこと気にすると思う」

「急にめちゃくちゃ喋るじゃん、なに?」


 つい口早に考えを述べると、桜井くんの口角の堅さがくだけた。元カノと胡桃の話をしただけで機嫌が直った……のだろうか? そうだとしたら、桜井くんにしても群青の先輩にしても、本当にみんなコイバナが好きすぎる。


「三国ってそういうの鈍そうなのにな。ちゃんと女子なんだな」


 荒神くんのそのコメントは笹部くんのことがあるがゆえに出てきているに違いない。荒神くんの中の私は「中学二年のとき同じクラスで、同じく同じクラスの笹部を酷いフリ方をした女子」だという認識なのだろう。


「別に……鈍いとは言われるけど、そこまで言われる(いわ)れはないというか……」

「侑生と付き合ってなんか変わったとか? 大丈夫だよ、侑生、仲良い女子全然いないから!」


 ……荒神くんは、いい加減そのネタを口にするのはやめたほうがいい。いや、このくらいなら雲雀くんに嫌われることはないとは分かっているのだろうけど、そして荒神くんがそう理解しているということは実際にそうなのだろうけど、何も分からない私にとっては針の(むしろ)なのでやめてほしい。


「……話を戻しまして、その、胡桃が彼女の存在に遠慮して来なかっただけということは、今年はきっと来るだろうから……餃子を食べ終わったらケーキは五等分にしたほうがいいと思う」

「そういう話してたっけ?」

「してたのはお前の元カノの話だな。別れたのいつだっけ、夏休み入る前?」

「あー、多分そうじゃね? 夏休み彼女とどっか行くの、って聞いたらフラれた気がするって言ってた」

「フラれた……気がする……?」


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