ぼくらは群青を探している
 パーカーを脱いで、雲雀くんに倣って水を絞っていると「三国、これ着てろ」と雲雀くんのマウンテンパーカーを放り投げられた。石階段の上に置かれていたうえに真っ黒なので、陽光を集めて暖まっている。ありがたくないわけがないけど、私がこれを借りると雲雀くんは上裸だ。


「え、いや別に……」

「着たほうがいいぞ、三国。マジで舜に視姦されるから」

「…………」

「あのね、マジでそういうこと言うのやめて? 俺が本当に変態みたいじゃん?」

「お前は変態だろ」

「……お借りします」

「ちょ、待って、三国、着るのはいいけど信じるのはやめて」


 もそもそと雲雀くんのマウンテンパーカーを羽織る。私より少し背が高いくらいだと思っていたのに、いざ着てみるとかなり大きい。なんならショートパンツさえ隠れてしまいそうだ。


「……ありがとうございます」

「別に」


 顎に手を当て、真面目な顔で頷く荒神くんの視線がこちらに向く。その視線がパーカーの上を滑って足に動いたのを見逃すはずがなかった。


「……これはこれでありだな」

「お前、除夜(じょや)の鐘と一緒に頭打たれたほうがいいんじゃねーの」


 溜息交じりの雲雀くんは、絞ってぐしゃぐしゃになったティシャツを着直している。私にパーカーを貸してくれたがばっかりに申し訳ない。同時に、ボディバッグの中にタオルを入れてきたことを思い出して慌てて引っ張り出した。


「……雲雀くん、タオル使う?」

「さんきゅ」

「え、待って、そういうのあるの? 俺もタオルほしいんだけど!」


 パーカーのせめてものお礼にと差し出すとすかさず桜井くんも出てきた。確かに桜井くんは上裸で、しかもプルオーバーのパーカーなんてティシャツと違って簡単に絞れない。でも雲雀くんは「知らねーよ、お前がその恰好で飛び込むのが悪い」と冷ややかにタオルを一人占めして、銀色の頭をぐしゃぐしゃと拭く。


「寒いんだよ俺は! 死んじゃうよ!」

「死なねーよ。つか俺とお前の条件は同じだろ」

「だったらタオルくれてもいいじゃん!」

「俺は悪くないけどお前は悪い」

「俺だって舜にやられたんじゃーん。あ、てか舜、シャツあるじゃん、貸して」

「やだよ着るから」

「お前ティシャツが無傷なんだからいいじゃん!」


 こんなに喚くことになるなら海になんか入らなければいいのに。不合理としか言いようがなかったのだけれど、そんな合理性とか論理則が、今はどうでもよかった。


「さーくらーいクン」


 そんな中に、誰かの声が、水を差す。私達が顔を上げると同時に、荒神くんが誰より早く「ンゲ」と小さく(うめ)いた。

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