ぼくらは群青を探している
 男女の付き合いにしては妙に曖昧な終わり方な気がしたけれど、以前も「自然消滅」と言っていたのでそういうものなのだろうか……? 桜井くんも桜井くんで「んー、んー、そうかも。廊下ですれ違って無視されたの、多分夏休みより前だったと思う」と首を捻っている始末だ。


「……彼女ってそんな適当でいいの?」

「……よくはないのかもしれないけど、だって俺もよく分かんなかったし」

「……ケータイ持ってないから連絡も取れないし、学校以外で話さないしでフラれたんだっけ?」

「なんかそうっぽい? 分かんないんだよ、自然消滅だから」

「どんな子だったの? 大人しい感じの子?」

「んー、割とそうかも。まあまあ真面目だったし……なんか俺と関わりない感じのタイプ。告白されたときに初めて話したってレベル」


 顎に手を当てながら、言われてみればなんで付き合ってたのか不思議だったなあと言わんばかりに首を捻ってみせる。現に付き合っていたというのにこの有様、当時の彼女との関係に対する解像度の低さが当時からの無関心さの現れに思えた。


「告白ってどんな風にされたの?」

「えー、普通にチョコ渡されて付き合ってくださいだよ。バレンタインだったし」

「……チョコ渡されるくらいだし、接点は何かあったんじゃ」

「んー、んー、本当に何も分かんない。てか付き合ってるときに『なんで俺?』って聞いたことあったけど、一目惚れって言われたからそうなんじゃない?」

「一目惚れ……」


 有り得なくはない……? と考えた後で、今の桜井くんと中学三年生当時の桜井くんは全く別人のはずだと気付く。入学式の時点でさえ、まるで従弟のような幼さがあったのだ、いわんや中学三年生時点をやという話だ。その桜井くんに一目惚れ……。……まあ私には理解できない概念だしあんまり掘り下げて考えても仕方があるまい。ただ……。


「……そういう、真面目な子が自然消滅ってするの?」

「どういう意味?」

「あー、まあ分かるっちゃ分かる」荒神くんだけが頷きながら「昴夜の元カノ、あんまそういう風に見えなかったんだよな。なんだろ、喧嘩したならまだしも廊下で会ったときに急に無視するとかしなさそうっていうか」

「荒神くんはどんな子だったか知ってるの?」

「えー、うん。なんかデートしてるときに出くわしたことあるし」

「三国、昴夜の元カノネタ好きだよな」


 それどんな子だったの──と聞く前に雲雀くんに笑われてしまったので口を閉じた。雲雀くんは嗤っていたけれど……、なんだか話を止められてしまった気がする。桜井くんの元カノの話を聞きたがるのは、雲雀くんの手前あまりよろしくないのだろうか。


「……参考にしようと思って」

「それはやめろ」


 誤魔化すというと言葉が悪いけれど、他意はないことを伝えるために付け加えたつもりが、冷ややかな却下を食らう羽目になった。荒神くんだけが「はっはーん」と楽しそうに頬を緩める。


「てかぶっちゃけ三国と侑生ってどこまでやったの?」

「死ね」

「待って、いきなり死ねは酷くない? ねね、キスくらいした?」


 キ……。言葉を失って黙り込んでしまった。雲雀くんとキ……。……考えるだけで頬が火照(ほて)るのを感じる。そしてそれをどう勘違いしたのか、荒神くんの頬は更に緩んだ。


「まー侑生だもんな。付き合って……二週間だっけ? キスはしてるよなー、舌入れ始めたくらい?」

「し……た……?」

「歩く猥褻物(わいせつぶつ)かよお前」

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