ぼくらは群青を探している
「三国がいるから他の女子から誕プレ受け取んないんだろ。カーッコイ」
茶化すような、というか現に茶化している荒神くんを、雲雀くんの冷たい双眸がじろりと睨んだ。別にそんなことは気にしなくていいのに……。とはいえ胡桃からの貰い物を食べないのは胡桃に対する感情の問題だろうから、ここはそうフォローする必要はあるまい。
「てか……」
荒神くんは私の手元に視線を向けて、セリフの語尾を濁した。
きっと私が買ったと宣言した二人の誕生日プレゼントのことを言いたいのだろう。渡すなら今じゃないか、と。
でも、桜井くんの誕生日プレゼントに買ってきたのはクッキーだった。しかもよりによってクッキーの複数種類の組み合わせだ。クッキーを嫌いな人がいるなんて思わないし、桜井くんは甘党だから余計に考えもしなかった。
そんなものを渡せるはずがない。誤魔化すために、カバンの中からは携帯電話を取り出した。それを開いてメールを確認するふりをしたけれど、誰からも何も連絡はなかった。
「……私も、ケーキ食べたら片付けて帰ろうかな」
荒神くんはきっと少し反応に困ってしまったと思う。でもすぐに「マージか」と場を繋ぐ。
「俺帰るのめんどいなー、昴夜泊めて」
「いいけど、舜と英凜、方向一緒なんだから舜が一緒に帰ればいいじゃん」
「ほらあ、そういうのは彼氏の役目だから」
「お前、こんだけ凶器が揃ってるのによくその軽口叩けるな」
「包丁とフォークは危ないから、マジでやめて。マジで」
……わざわざ買い直して、明後日渡すのも変だしな。パチンと携帯電話を閉じてカバンの中に突っ込むと、ガサガサとラッピングの袋が音を立てた。
荒神くんは結局桜井くんの家に泊まると言い、桜井くんが「侑生も泊まる?」というのを雲雀くんは「なんもないし帰る」と断り、私と雲雀くんだけが玄関の外に出た。荒神くんはもうテレビゲームを始めていたので、見送ってくれたのは桜井くんだけだった。
「んじゃまた明日ァ」
「……またね」
「おやすみ」
桜井くんは、私に誕生日プレゼントを要求しなかった。
でも、別に胡桃にも要求して貰ったわけではなかったしな……。歩き出しながら、ぼんやりと桜井くんの家の中での光景を振り返る。
桜井くんは胡桃から貰うのが当たり前みたいな顔をしていた。……胡桃は何も言わなかったけど、桜井くんは胡桃の誕生日にちゃんとプレゼントを渡したのかな。四月一四日って何曜日だっけ。……実力テストも四月一四日だったから、金曜日か。そうなると、少なくとも夕飯までは桜井くんは私達と一緒にいたな……。なんなら東中の近くにあるガスツにいたから、桜井くんの家とは逆方向……。ということは桜井くんは胡桃の誕生日は祝わなかったのかな……。いや、向かい側なんだから、夜、そう遅くならないうちに玄関チャイムを鳴らせばいくらでも……。
「三国」
雲雀くんに声をかけられるまで、信号が青になっていることに気が付かなかった。
「ごめん、ぼーっとしてた……」
「それはいつもだろ」
「……そういえば、桜井くんから、雲雀くんが私をぼーっとしてるって悪口言ってたって聞いたことがある」
「悪口じゃねーよ、印象だから」
「結果的に悪口なんだよ」
歩きだしながらも、頭にはカバンの中のクッキーの袋のことがちらついていた。これを渡すことは……、もうないのだけれど、桜井くんの誕生日に何も渡さないのも……。
茶化すような、というか現に茶化している荒神くんを、雲雀くんの冷たい双眸がじろりと睨んだ。別にそんなことは気にしなくていいのに……。とはいえ胡桃からの貰い物を食べないのは胡桃に対する感情の問題だろうから、ここはそうフォローする必要はあるまい。
「てか……」
荒神くんは私の手元に視線を向けて、セリフの語尾を濁した。
きっと私が買ったと宣言した二人の誕生日プレゼントのことを言いたいのだろう。渡すなら今じゃないか、と。
でも、桜井くんの誕生日プレゼントに買ってきたのはクッキーだった。しかもよりによってクッキーの複数種類の組み合わせだ。クッキーを嫌いな人がいるなんて思わないし、桜井くんは甘党だから余計に考えもしなかった。
そんなものを渡せるはずがない。誤魔化すために、カバンの中からは携帯電話を取り出した。それを開いてメールを確認するふりをしたけれど、誰からも何も連絡はなかった。
「……私も、ケーキ食べたら片付けて帰ろうかな」
荒神くんはきっと少し反応に困ってしまったと思う。でもすぐに「マージか」と場を繋ぐ。
「俺帰るのめんどいなー、昴夜泊めて」
「いいけど、舜と英凜、方向一緒なんだから舜が一緒に帰ればいいじゃん」
「ほらあ、そういうのは彼氏の役目だから」
「お前、こんだけ凶器が揃ってるのによくその軽口叩けるな」
「包丁とフォークは危ないから、マジでやめて。マジで」
……わざわざ買い直して、明後日渡すのも変だしな。パチンと携帯電話を閉じてカバンの中に突っ込むと、ガサガサとラッピングの袋が音を立てた。
荒神くんは結局桜井くんの家に泊まると言い、桜井くんが「侑生も泊まる?」というのを雲雀くんは「なんもないし帰る」と断り、私と雲雀くんだけが玄関の外に出た。荒神くんはもうテレビゲームを始めていたので、見送ってくれたのは桜井くんだけだった。
「んじゃまた明日ァ」
「……またね」
「おやすみ」
桜井くんは、私に誕生日プレゼントを要求しなかった。
でも、別に胡桃にも要求して貰ったわけではなかったしな……。歩き出しながら、ぼんやりと桜井くんの家の中での光景を振り返る。
桜井くんは胡桃から貰うのが当たり前みたいな顔をしていた。……胡桃は何も言わなかったけど、桜井くんは胡桃の誕生日にちゃんとプレゼントを渡したのかな。四月一四日って何曜日だっけ。……実力テストも四月一四日だったから、金曜日か。そうなると、少なくとも夕飯までは桜井くんは私達と一緒にいたな……。なんなら東中の近くにあるガスツにいたから、桜井くんの家とは逆方向……。ということは桜井くんは胡桃の誕生日は祝わなかったのかな……。いや、向かい側なんだから、夜、そう遅くならないうちに玄関チャイムを鳴らせばいくらでも……。
「三国」
雲雀くんに声をかけられるまで、信号が青になっていることに気が付かなかった。
「ごめん、ぼーっとしてた……」
「それはいつもだろ」
「……そういえば、桜井くんから、雲雀くんが私をぼーっとしてるって悪口言ってたって聞いたことがある」
「悪口じゃねーよ、印象だから」
「結果的に悪口なんだよ」
歩きだしながらも、頭にはカバンの中のクッキーの袋のことがちらついていた。これを渡すことは……、もうないのだけれど、桜井くんの誕生日に何も渡さないのも……。