ぼくらは群青を探している
 ……というか、雲雀くんの誕生日プレゼントは渡さなければ。駅前に差し掛かったところではたと気付いて、慌ててカバンの中を漁った。ガサリと、桜井くんに渡せなかったクッキーの袋が音を立てた。


「なんか忘れ物?」

「そうじゃなくて、誕生日プレゼント」


 ブルーの包装紙に包まれた四角い箱を取り出して差し出す。雲雀くんはきょとんと目を丸くして立ち止まった。雲雀くんも雲雀くんでどこか頓珍漢(とんちんかん)だな、自分の誕生日なのにその想定をしないなんて。


「……その、渡すタイミングがなくて。胡桃が渡してるときに一緒に渡せばよかったんだけど……、桜井くんのぶんがないから」


 本当は用意してたけど、クッキーを嫌いだと知ったので渡せなかった、そんなことは口に出せなかった。桜井くんのぶんも用意していたことを雲雀くんに言うべきではないのかもしれないと咄嗟の判断が働いたのと……、私がそれほどまでに桜井くんを知らないのだと口にしたくなかった。

 駅前で唐突に思い出しただけで、いわゆる雰囲気もなにもない、プレゼントを渡すには適切さも適格さもない状況だった。

 でも、雲雀くんの機嫌が少し良くなったかもしれない。今までだって別に機嫌が悪そうだったわけではないけれど、いつもの無表情から頬が緩んだ。


「……ありがとう」


 手のひらサイズのボックスを、差し出された手のひらに載せた。


「……開けていいか」

「ど、どうぞ。あ、でもやっぱり帰ってからで。気に入らなかったらあれだし……」


 撤回は聞き入れてもらえなかったらしく、雲雀くんは包み紙のテープ部分にカリカリと爪を立てる。クリーム色の小箱に入っているのはブルーのスタッズピアス (と言うらしい)、現時点の雲雀くんの耳に邪魔にならないものを選んだけれど、逆に雲雀くんの耳は派手なのでこんな地味なものはついていない。その意味で不安はある。


「……雲雀くんはあんまりこういうタイプはつけてないなって思ったんだけど、その、雲雀くん、多分シルバーとブルーが似合うし……、いやつけろって意味じゃないんだけど……」


 しどろもどろと言い訳をしても、雲雀くんはあまり表情を変えなかった。……いや、注意深く見れば、やはりその口角が少し緩んでいた。


「……ありがとな。つけるよ」


 頭に手が乗せられた。なでなで、なんて擬態語が聞こえてきそうな仕草だった。


「……どう、いたしまして」


 良かった、機嫌が直った。そんなつもりで誕生日プレゼントを用意したわけじゃなかったけれど、雲雀くんが拗ねているのが少しでも解消されたのなら、それにこしたことはない。一石二鳥、なんて言ってはいけないけどそれに近い。


「……池田と選んだのか」

「な、なんで分かったの……」

「……三国がこういうものを選べる気がしない」

「私のことなんだと思ってるの?」

「アクセサリーって発想がなさそう、三国に」


 ……確かにネックレスのひとつも持っていないので反論はできなかった。歩き出しながら「……私服がティシャツ一択だからすることがないだけだよ」「制服でもつけてるヤツはいるだろ」「……何のために……?」「そういうところだよ」とまた(けな)された。陽菜にもよく飾りっけがないと指摘されるので、彼氏がいる身としてもう少し気を使ったほうがいいのかもしれない。

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