ぼくらは群青を探している
それはどこかむず痒い、恥ずかしいセリフであるはずなのに、雲雀くんの表情に照れくささはなかった。少なくとも私から見れば、どこか自嘲気味に見えた。
「……そう、です」
「……別に、現に好きじゃないことには変わりないからいいだろ?」
……なんでそんな拗ねたような言い方をするのだろう。今日の私は、雲雀くんとの関係を何か間違えただろうか。
「……でも、それは気付いてないだけかもしれないって」
「三国は、俺を好きじゃないよ」
拗ねている。きっと雲雀くんは拗ねている。それで間違いない。あまりにも静かな落ち着いた声に惑わされそうになるけれど、わざわざそんなことを指摘する雲雀くんは、拗ねている。
「三国は、俺を好きじゃない」
それこそ、まるで認識を操作されてしまいそうなほど、確信めいた声音だった。
「……どうしてそう思うの」
「……三国は、俺がどこで何して何を思ってても気にならないだろ」
……ペットか何かの話だろうか。そう思えてしまうほど突飛のない話というか、想像しようにもできない話というか、少なくとも馴染のない感覚だった。
「俺は、気になるよ」
雲雀くんは、溜息と共に言葉を吐き出した。
「結局俺の言うことは聞かずに紅鳶神社に行って、昴夜と一緒にいて、蛍さんに送ってもらって……。一緒にいる間、どんなことを話したのか、どんな顔をしてたのか、どんな風に思ってたのか……」
……桜井くんにも、そうやって怒られた。どうして雲雀くんの言葉を聞き入れなかったのか、雲雀くんは私を好きなのに、と。
雲雀くんが私を好きだと、本当に分かってるのかと。
だから、紅鳶神社へ行ったことはどれだけ怒られても仕方がないとは分かっていた。桜井くんの指摘を理解することはできなかったけれど、桜井くんが怒ったのだからきっと雲雀くんが怒ることなのだろうと。
でも、桜井くんと蛍さんの話はそれとは別だ。桜井くんと一緒にいたことと、蛍さんに送ってもらったことが雲雀くんにとって悪い意味で特別な意味を持つということは、まだ誰も教えてくれていない。
でも、桜井くんに詰問されて泣いてしまったなんて、雲雀くんの前では言えないと判断したのは確かだった。そして桜井くんもその点を詳らかにしなかった。それが、答えなのかもしれなかった。
「……同じ場所にいてもそう。三国が昴夜と二人で喋ってるとき、何を喋ってるのか、どんな顔をしてるのか……、俺に分からない話じゃないか。俺は、気になるよ」
内心がそんな有様だったのに、言葉に詰まってしまったのは、そう聞いた途端に、馴染のない感情だなんて白々しいことは言えなくなったから。
そのことに、雲雀くんは気付いたのだろうか。分からなかった。ただ、表情は変えないまま、もう一度、そっと息を吐きだす。
「……ピアス、ありがとう。つけるよ。おやすみ」
東西線の逆のホームへ、雲雀くんは降りて行った。言葉を失ったまま呆然とその後ろ姿を見送って……、階段を下りた後、つい向かい側のホームに視線を向ける。雲雀くんはホームに沿ってずっと遠くへ歩いているばかりで、私の姿を探そうともしていなかった。そのまま、ファファーミ♭ドー……と音楽が流れ始め、電車が滑り込んできて、姿は見えなくなった。
そこから最寄駅に着くまで、自分が何を考えていたのか、よく覚えていない。ただぼんやりと、馴染のない感覚だったはずの感情の基礎を、頭の中で反芻していた。
「……そう、です」
「……別に、現に好きじゃないことには変わりないからいいだろ?」
……なんでそんな拗ねたような言い方をするのだろう。今日の私は、雲雀くんとの関係を何か間違えただろうか。
「……でも、それは気付いてないだけかもしれないって」
「三国は、俺を好きじゃないよ」
拗ねている。きっと雲雀くんは拗ねている。それで間違いない。あまりにも静かな落ち着いた声に惑わされそうになるけれど、わざわざそんなことを指摘する雲雀くんは、拗ねている。
「三国は、俺を好きじゃない」
それこそ、まるで認識を操作されてしまいそうなほど、確信めいた声音だった。
「……どうしてそう思うの」
「……三国は、俺がどこで何して何を思ってても気にならないだろ」
……ペットか何かの話だろうか。そう思えてしまうほど突飛のない話というか、想像しようにもできない話というか、少なくとも馴染のない感覚だった。
「俺は、気になるよ」
雲雀くんは、溜息と共に言葉を吐き出した。
「結局俺の言うことは聞かずに紅鳶神社に行って、昴夜と一緒にいて、蛍さんに送ってもらって……。一緒にいる間、どんなことを話したのか、どんな顔をしてたのか、どんな風に思ってたのか……」
……桜井くんにも、そうやって怒られた。どうして雲雀くんの言葉を聞き入れなかったのか、雲雀くんは私を好きなのに、と。
雲雀くんが私を好きだと、本当に分かってるのかと。
だから、紅鳶神社へ行ったことはどれだけ怒られても仕方がないとは分かっていた。桜井くんの指摘を理解することはできなかったけれど、桜井くんが怒ったのだからきっと雲雀くんが怒ることなのだろうと。
でも、桜井くんと蛍さんの話はそれとは別だ。桜井くんと一緒にいたことと、蛍さんに送ってもらったことが雲雀くんにとって悪い意味で特別な意味を持つということは、まだ誰も教えてくれていない。
でも、桜井くんに詰問されて泣いてしまったなんて、雲雀くんの前では言えないと判断したのは確かだった。そして桜井くんもその点を詳らかにしなかった。それが、答えなのかもしれなかった。
「……同じ場所にいてもそう。三国が昴夜と二人で喋ってるとき、何を喋ってるのか、どんな顔をしてるのか……、俺に分からない話じゃないか。俺は、気になるよ」
内心がそんな有様だったのに、言葉に詰まってしまったのは、そう聞いた途端に、馴染のない感情だなんて白々しいことは言えなくなったから。
そのことに、雲雀くんは気付いたのだろうか。分からなかった。ただ、表情は変えないまま、もう一度、そっと息を吐きだす。
「……ピアス、ありがとう。つけるよ。おやすみ」
東西線の逆のホームへ、雲雀くんは降りて行った。言葉を失ったまま呆然とその後ろ姿を見送って……、階段を下りた後、つい向かい側のホームに視線を向ける。雲雀くんはホームに沿ってずっと遠くへ歩いているばかりで、私の姿を探そうともしていなかった。そのまま、ファファーミ♭ドー……と音楽が流れ始め、電車が滑り込んできて、姿は見えなくなった。
そこから最寄駅に着くまで、自分が何を考えていたのか、よく覚えていない。ただぼんやりと、馴染のない感覚だったはずの感情の基礎を、頭の中で反芻していた。