ぼくらは群青を探している
 海岸の上の歩道に、五、六人の男が立っていた。その口角は吊り上がっているけれど、それが愛想笑いでもなければ嬉しさゆえの自然な笑みですらないことくらい、私にも分かった。しかも、そのうちの何人かは煙草を吸っていて、煙のくゆる様子に不気味さを感じた。

 あ、これ、間違いなく危ないやつだ。直感したところで、砂浜の上なんて逃げようがない。それを見越して、その五、六人は海岸へ降りてきていないのだろう。


「……なんか用?」

「別にィ、女の子と楽しく浜辺で遊んでるからさぁ、俺達も混ぜてよって言いに来ただけよ」


 中心に立っていた人の視線が私に向いた。あの庄内さんとかいう三年生と似たような、まるでゴリラのように大柄な人だった。緊張で心臓が跳ねる。その視線はそのままゆっくりと、私の顔から胸、足へと動いた。途端、心臓にナイフの切っ先を突きつけられたかのような恐怖が走る。

 その視線が、金髪に遮られた。心臓とナイフの切っ先の間に壁ができる。


「悪いなのび太、この遊び四人用なんだぜ、ってヤツだよ。どっか行って、邪魔」


 その人と私との間に立った桜井くんは、この状況にあまりにもそぐわない軽口で吐き捨てた。

 桜井くんの陰に隠れてしまったから、その人の表情は分からなかった。

 代わりに、ドスン、ドスンとその団体のうち二、三人が海岸に降りてきた。降りてきた中に、中心に立っていたゴリラもいた。


「相変わらず口の利き方がなってねーな、桜井」


 鼻をつく煙草の臭いが、桜井くんをすり抜けて私まで(ただよ)ってくる。その人が桜井くんの目の前に立てば、その体格差のせいで、もう桜井くんという壁は意味をなさなかった。


「しつけられてからピーピー泣いたって遅いんだぜ、桜井くん」


 バンッという音が、一体なにを原因にして起こったのか分からない。

 ただ気付いたときには、雲雀くんに肩を抱かれて、桜井くんから引き離されていた。咄嗟に目を瞑ってしまったせいで、その後五秒くらいも何が起こっていたのか分からず、桜井くんが顔を殴られて蹈鞴(たたら)をふんだという目の前の状況しか頭に入ってこなかった。


「桜井く、」

「おい昴夜」


 私が悲鳴を上げるより先に、雲雀くんが桜井くんを叱咤(しった)した。


三国(コイツ)がいんだろ、ちゃんとやれ」

「うへぇ、厳しい」


 ぺっ、と唾を吐き、桜井くんは首を鳴らす。同じように、ゴリラみたいな人が煙草を吐き捨て、砂浜の上で揉むように火を消した。


「可愛い顔が台無しだぜ、桜井くん」


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