ぼくらは群青を探している
雲雀くんが無表情なのはいつものことなので、機嫌の良し悪しは分からない。でも耳には昨日のピアスが刺さっていた。
「なー、ゆーき、数学の予習した? 今日俺当たるの忘れてた」
「してねーし、知らねーよ」
桜井くんは、雲雀くんのピアスには触れなかった。でも桜井くんのことだし、雲雀くんのピアスが変わっていても気づかないのだろう。
逆に、陽菜は目敏くチェックしていて、昼休みに二人が外へ出て行くと、すぐに私のところへやってきて「雲雀! ピアスつけてんなあ!」と興奮気味に叫んだ。
「……そうだね」
「やっぱああいうとこ雲雀はいいよな。彼女に貰ったら絶対使ってくれるの。カッコイー!」
「……雲雀くんの優しさだと思うけど」
デザインが気に入る気に入らないなんて話しではなく、雲雀くんは私からのプレゼントなんてつけたくなかったのでは? 脳裏には、東西線のホームに降りる前の雲雀くんの顔が目に浮かぶ。三国は俺を好きじゃない──雲雀くんがそう断言できるのは、どうしてだろう。
私が雲雀くんを好きじゃないと確信しているだけなのか。それとも、私が桜井くんを好きだと確信しているのか。
「てかさー、雲雀のことそろそろ名前で呼んだら?」
「……なんでみんなそんなに名前に拘るの」
「え、だって彼氏彼女の特権じゃん。あー、でもベッドで呼んでほしいなー、雲雀にはそうしてほしい」
無言でお箸を進めた。さすがにベッドが何を意味するのかくらいは分かる。それにしてもみんなどこでそういう知識を……。
「……陽菜、今度なにか少女漫画貸してくれない」
「え、なんで。お前全然興味ないつったじゃん」
「……なんか恋愛について色々と学ぼうと思って」
桜井くんにも蛍さんにも怒られたし、なんなら能勢さんには男の目に疎いだのなんだの言われたし……。とはいえそんなことをはっきりと口に出すことはできないので黙っていたけれど、陽菜は察知してくれたらしい。にんまりとその口は弧を描く。
「じゃオススメ貸してやるよ! んーとね、最近読んだのだと『片恋ギャンブル』かな」
「……内容を要約して教えてほしい」
「えーとね、罰ゲームで好きな人と付き合うことになるんだけど、実は両片思いなの。だからヒーローはちょいちょい好きアピールするんだけど、ヒロインは罰ゲームで付き合ってるって思ってるから全部スルーしちゃって、そのせいでヒーローは片思いなんだって落ち込むんだよね。でも本当はヒロインだってヒーローのこと好きなの! でもでもヒロインにはヒロインを好きな幼馴染もいるの! 読んでてめっちゃキュンキュンするよ」
何も分からなかった。「キュンキュン」という擬態語を理解できたことはないので、そんなことを言われても作風が伝わってこない。そもそも「リョウカタオモイ」という言葉を知らない。文脈から推測するに、両方が片思いだと思い込んでいる、ということだろうか。そういうことなら相手の心情を理解できずに苦悩する描写を期待できるかもしれない。
「分かった、とりあえず貸してほしい」
「いいよ、明日持ってくる。てか英凜、お前今日日直だろ? あれ持ってくんじゃないの?」
陽菜が指さしたのは教卓の上に散らばったプリントだ。二週間前のセンター模試のやり直しプリントで、明らかにクラスの人数に満たない更紙が折りたたまれて積まれている。
「……そうだね。食べたら持って行く」
「手伝おっか?」
「いいよ、少ないし」
「なー、ゆーき、数学の予習した? 今日俺当たるの忘れてた」
「してねーし、知らねーよ」
桜井くんは、雲雀くんのピアスには触れなかった。でも桜井くんのことだし、雲雀くんのピアスが変わっていても気づかないのだろう。
逆に、陽菜は目敏くチェックしていて、昼休みに二人が外へ出て行くと、すぐに私のところへやってきて「雲雀! ピアスつけてんなあ!」と興奮気味に叫んだ。
「……そうだね」
「やっぱああいうとこ雲雀はいいよな。彼女に貰ったら絶対使ってくれるの。カッコイー!」
「……雲雀くんの優しさだと思うけど」
デザインが気に入る気に入らないなんて話しではなく、雲雀くんは私からのプレゼントなんてつけたくなかったのでは? 脳裏には、東西線のホームに降りる前の雲雀くんの顔が目に浮かぶ。三国は俺を好きじゃない──雲雀くんがそう断言できるのは、どうしてだろう。
私が雲雀くんを好きじゃないと確信しているだけなのか。それとも、私が桜井くんを好きだと確信しているのか。
「てかさー、雲雀のことそろそろ名前で呼んだら?」
「……なんでみんなそんなに名前に拘るの」
「え、だって彼氏彼女の特権じゃん。あー、でもベッドで呼んでほしいなー、雲雀にはそうしてほしい」
無言でお箸を進めた。さすがにベッドが何を意味するのかくらいは分かる。それにしてもみんなどこでそういう知識を……。
「……陽菜、今度なにか少女漫画貸してくれない」
「え、なんで。お前全然興味ないつったじゃん」
「……なんか恋愛について色々と学ぼうと思って」
桜井くんにも蛍さんにも怒られたし、なんなら能勢さんには男の目に疎いだのなんだの言われたし……。とはいえそんなことをはっきりと口に出すことはできないので黙っていたけれど、陽菜は察知してくれたらしい。にんまりとその口は弧を描く。
「じゃオススメ貸してやるよ! んーとね、最近読んだのだと『片恋ギャンブル』かな」
「……内容を要約して教えてほしい」
「えーとね、罰ゲームで好きな人と付き合うことになるんだけど、実は両片思いなの。だからヒーローはちょいちょい好きアピールするんだけど、ヒロインは罰ゲームで付き合ってるって思ってるから全部スルーしちゃって、そのせいでヒーローは片思いなんだって落ち込むんだよね。でも本当はヒロインだってヒーローのこと好きなの! でもでもヒロインにはヒロインを好きな幼馴染もいるの! 読んでてめっちゃキュンキュンするよ」
何も分からなかった。「キュンキュン」という擬態語を理解できたことはないので、そんなことを言われても作風が伝わってこない。そもそも「リョウカタオモイ」という言葉を知らない。文脈から推測するに、両方が片思いだと思い込んでいる、ということだろうか。そういうことなら相手の心情を理解できずに苦悩する描写を期待できるかもしれない。
「分かった、とりあえず貸してほしい」
「いいよ、明日持ってくる。てか英凜、お前今日日直だろ? あれ持ってくんじゃないの?」
陽菜が指さしたのは教卓の上に散らばったプリントだ。二週間前のセンター模試のやり直しプリントで、明らかにクラスの人数に満たない更紙が折りたたまれて積まれている。
「……そうだね。食べたら持って行く」
「手伝おっか?」
「いいよ、少ないし」