ぼくらは群青を探している
 その後も、何が起こったのか分かっていない。雲雀くんの腕は器用に肩ごと私の体を抱き込み、更に桜井くんから離れた。荒神くんの「うえー」なんて声が近くで聞こえるので視線だけを動かすと、雲雀くんの隣で、何かに参ったように舌を出している。


「やべーな、アイツら誰?」

「あのゴリラに見覚えがある。黒鴉(レイブン・クロウ)だな」


 蛍永人さんが来た日、桜井くんが解説してくれたチームのひとつだ。ということはかなり厄介な相手なのでは――なんて冷や汗が背中を走るうちに「ひーばーりくん」と語尾に音符でもついていそうな陽気な声が向けられた。


「お姫様連れてなーにやってんの。先輩も混ぜてくんないかなァ?」

「舜、お前これ抱えてろ」

「俺? いや無理だよ、抱えながら喧嘩とか無理無理!」


 まるでボールのように、私は今度は荒神くんにパスされた。荒神くんは女好きでうんぬんかんぬんなんて二人は話していたくせに、どう考えても肩の抱き方は雲雀くんのほうが手慣れていた。荒神くんは「いやマジ、えー、無理だって!」とずっと無理を連発していて、狼狽(うろた)えているのが非常によく伝わってくる。

 それはさておき、砂浜で突如始まったのは、完全に乱闘だった。桜井くんも雲雀くんも、悲鳴を上げる暇もないほど数人相手に殴り殴られ蹴り蹴られを繰り返している。それどころか、相手には鉄パイプのような道具を持っている人までいた。


「荒神くん、警察……!」

「え、いや、そういうの呼んだら余計に後が怖いって。つか相手にされないし、下手し俺らも捕まるし」


 そっか、当たり前だ、桜井くん達にとってはこんなことは日常茶飯事。そんな人が「喧嘩を吹っ掛けられました」なんて言ったって信じてもらえるか分からないし、信じてもらえたからといって警察が四六時中(しろくじじゅう)警護をしてくれるようになるわけではないのだ。まるっきり意味がない、どころか、荒神くんのいうとおり、それは相手の神経を逆撫でするだけで逆効果だ。


「で、も、これどうするの、っていうかいつもどうしてるの」

「いやいつもこんなだよ、勝てば逃げられるし、負ければそこでおしまい。まー、侑生と昴夜が負けるってことは基本ないけど、この人数だし、三国いるしな……」


 荒神くんの背中から黒鴉(レイブン・クロウ)の人達の位置を確認する。4人は砂浜に降りてきたけど、二人は上の歩道にいるままだ。彼らが歩道に残っている以上、砂浜を海岸線沿いに逃げたってすぐに捕まる。そして私達の後ろは海。川に背を向けるより一層後退を許さない最悪の布陣だ。大体、この人数相手に緊張感がないはずがない。背水の陣なんてまったくもって不要だ。

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